
SACD(スーパーオーディオCD)は、CDを超える高音質フォーマットとして1999年に登場しました。
メジャーレーベルの多くはすでにSACDのリリースを終了していますが、過去に発売された膨大なカタログの中には、今なお聴く価値のある優秀録音が数多く残っています。
この記事では、SACDの音質を支えるDSDの仕組みから、具体的な楽しみ方、そしてレーベル別のおすすめ盤まで紹介します。
SACDとは何か
SACDは、ソニーとフィリップスが共同開発した高音質ディスクメディアです。CDと同じサイズのディスクですが、記録方式がまったく異なります。
CDを超える高音質の仕組み「DSD」
SACDの高音質を支える技術がDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)です。CDで使われるPCM方式との違いは、主に2点あります。
1. サンプリング周波数の違い
CDが1秒間に44,100回(44.1kHz)音を記録するのに対し、DSDはその64倍にあたる2,822,400回(2.8MHz)で記録します。
2. 音の強弱を表現する方法の違い
CDのPCM方式は、標本化した音の強弱を16bit(65,536段階)のデジタル数値で表現します。一方DSDは、音楽の波形をデジタルパルスの密度(粗密)として記録する1bit方式を採用しています。

CDに比べてサンプリング回数が圧倒的に多いDSDでは、PCMより「時間軸の精度」が重要になります。この精度が揺らぐと(ジッター)、せっかく細かく記録した情報が濁り、DSD本来のクリアネスが失われます。
この時間軸の精度を司るのが、オーディオ機器の心臓部ともいえる「マスタークロック」です。Uptone AudioのJohn Swenson氏の論文が参考になります。日本語に翻訳したページを紹介します。

CDプレーヤーでも再生できる「ハイブリッド盤」
多くのSACDは、通常のCDプレーヤーで再生できるCD層と、SACDプレーヤーでなければ再生できない高音質なSACD層の2層構造を持つ「ハイブリッド盤」です。SACDプレーヤーを持っていなくても、CD層で再生できます。


引用元:What Is The New HYBRID 3 Super Audio CD Technology? | What's Best Audio and Video Forum.
SACDとハイレゾの違い
どちらもCDを超える高音質な音源ですが、指しているものが異なります。
SACDは、DSD音源を収録した物理的なディスクメディアです。再生には専用プレーヤーが必要です。
ハイレゾは、CDスペックを超える高音質な音楽ファイルの総称で、主にPCM形式(FLAC、WAVなど)を指します。QobuzやTIDALといったサブスクリプションや、ダウンロード購入を通じて入手し、PCやネットワークプレーヤーで再生します。
「ハイレゾ」の定義について
日本オーディオ協会(JAS)の定義では、「ハイレゾオーディオ」はCDスペック(16bit/44.1kHzまたは48kHz)を超えるPCM音源(FLACやWAVなど)とされています。
DSDはPCMとは記録方式が根本的に異なるため、JASの定義上は「ハイレゾオーディオ」とは別の高音質フォーマットとして並列に扱われています。

とはいえ、どちらも「CDを超える高音質な音源」という点では共通しています。オーディオファイルの間では、DSDも広義のハイレゾ音源の一つとして認識されているのが一般的です。
参考:一般社団法人 日本オーディオ協会 | ハイレゾ | ハイレゾロゴ | 定義と運用
DSDの課題と注意点
DSDにはいくつかの課題もあります。
まず、その特殊な記録方式のため、PCM音源のように録音後の編集や加工が非常にやりにくいという点。DSD録音を謳うレーベルでも、実際には編集をPCMで行い、最後にDSD変換しているケースは少なくありません。
また、DSDはその原理上、可聴帯域外に大量の高周波ノイズを発生させます。多くのSACDプレーヤーではフィルターでカットされますが、このノイズの扱い方が音質を左右する一因にもなっています。
SACDとDSD音源の楽しみ方
DSD音源を楽しむには、主に3つの方法があります。
1. SACDプレーヤーで聴く
最も基本的な方法です。ディスクをプレーヤーに入れ、アナログ出力をアンプに接続して楽しみます。近年は対応プレーヤーの選択肢が減少傾向にあります。
2. DSD音源(ファイル)を購入して楽しむ
音楽配信サイトでは、SACDスペック(2.8MHz)を超える5.6MHzや11.2MHzといったDSD音源も販売されています。PCやネットワークプレーヤーで再生する、現代的な楽しみ方です。
DSDのダウンロード購入はNativeDSD Musicがおすすめです。その音源のオリジナル録音フォーマットが明記されています。
3. 手持ちのSACDをリッピングする
すでに所有しているSACDをファイル化し、PCオーディオで楽しむ方法です。対応機種や手順については以下の記事で解説しています。

おすすめ名盤ガイド
SACDの魅力は、やはり実際に聴いてこそ実感できます。ここでは、レーベルごとにおすすめの10枚を紹介しています。
エソテリックSACDの世界
オーディオファイルから根強い人気があるのが、エソテリックによる復刻シリーズです。オリジナルのマスターテープからこだわり抜いて制作されたディスクで、限定生産のためプレミア価格で取引されています。

レーベル別おすすめSACD 10選
SACDを継続的にリリースしているレーベルは限られています。過去の名作をDSDでリマスターするケースが多いですが、DSD録音にこだわりの強いレーベルも存在します。
Philips(フィリップス)
ソニーとともにSACDとDSDを共同開発した本家本元。DSD録音とPCM録音のSACDが混在しており、同じSACDでもその違いが感じられます。

DG(ドイツ・グラモフォン)
DSD録音のSACDはなく、PCM 48kHz/24bitや96kHz/24bitで録音・編集後にDSD変換して制作されています。それでもCD層とのクオリティ差は十分に感じられます。

Mercury(マーキュリー)
Living Presenceの名前でも知られる優秀録音の宝庫。SACDは3トラック・マスターテープからDSDダイレクト変換されており、オリジナルの3chとステレオ2chの両方が収録されています。程度の良いLPを見つけるのが難しい中、SACDはこのレーベルの録音を高い水準で楽しめるフォーマットです。

Telarc(テラーク)
設立当初からデジタル録音を採用したアメリカのレーベル。初期のSoundstream録音時代よりも、後期のSACDに優秀作品が多い印象です。SACDを語る上では外せないレーベルの1つ。

Chesky Records(チェスキー)
自然な音場感と空間表現に定評のあるニューヨークのレーベル。教会やホールでのライブ一発録りが基本で、ジャズ、クラシック、ポップスと幅広いカタログがあります。SACDはほとんど廃盤です。

Hyperion(ハイペリオン)
英国のクラシック専門レーベル。ピアノ作品を中心に良質な録音の宝庫です。全体のカタログに対してSACDは多くありませんが、ハフ、アムラン、ヒューイットなど充実した内容です。

Stockfisch Records(ストックフィッシュ)
ドイツのオーディオファイル向けレーベル。アコースティック・ギターとシンガーソングライターの作品を中心に、オーバーダブなしの一発録りで制作しています。Direct-Cut SACDやDMM-CD/SACDといった独自フォーマットにも積極的です。

fone(フォネ)
イタリアの高音質レーベル。1947年製のNeumann真空管マイクを使い、編集・加工を一切行わないという録音哲学を貫いています。クラシックよりもジャズに良作が多い印象です。
Analogue Productions(アナログ・プロダクションズ)
高品質な再発盤で世界的に定評のあるレーベル。オリジナルのアナログ・マスターテープからリマスターすることを原則とし、ジャズ、ロック、クラシックの定番作品を幅広くカバーしています。

気になるレーベルがあれば、まずは1枚手に取ってみてください。
