【完全ガイド】クラシックレコード・オリジナル盤の見分け方

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オリジナル盤レコード。

それはコレクターとオーディオファイルを魅了し続ける、特別な響きを持つ言葉です。しかし、その世界は奥深く、知識なくして価値を見極めるのは困難です。

高価なレコードを購入して「オリジナルではなかった」と後悔したり、価値ある盤を安価に手放してしまったり。そんな失敗は誰しも避けたいでしょう。

この記事を最後まで読めば、あなたもクラシックレコードの価値を判断する確かな目が養われます。中古レコード店に眠る「宝物」を見つけ出す力を、ここで身につけてください。

目次

そもそも「オリジナル盤」とは何か

まず、この記事における「オリジナル盤」の定義を明確にします。

一般的に「最初のプレス」とされますが、それだけでは不十分です。厳密には「最初のカタログナンバーシリーズに対して、最初に製造されたデザインのラベルを持つレコード」です。

例えば、英国DeccaのSXL2000番台シリーズなら、ED1 (左上にORIGINAL RECORDING BYの印字)ラベルのものがオリジナル盤、という解釈になります。この「規格番号とラベルデザインの組み合わせ」が、オリジナル盤であることの絶対条件です。

また、国ごとににオリジナル盤は存在しますが、英Deccaであれば、英国盤を中心に考えます。
作品によっては、フランスDeccaにしか存在しない録音とか、再発シリーズにしかステレオ盤が存在しないようなオリジナルプレスもあります。これらは、王道のシリーズよりも比較的安価に購入できることが多いです。

最重要の証拠「マトリクス番号」

オリジナル盤かどうかを判断した上で、それが「どれだけ初期にプレスされたか」を示す最重要の証拠が、盤の内周部に刻まれた「マトリクス番号」です。

レコード盤のラベルと溝の間の、何も録音されていない部分(デッドワックス)を見てください。

そこに、英数字が手彫り、あるいは刻印されています。ここには、どのマスターから作られたか、何番目の金型(スタンパー)でプレスされたか、といった情報が凝縮されています。ラベルがオリジナルデザインでも、このマトリクス番号が若ければ若いほど(例 -1E, -1W)、より価値の高い初期プレスと判断できます。

マトリクス番号は必ずしも1/1があるわけではなく、2/2から始まるようなものもあります。

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マトリクス1E

なぜオリジナル盤にこだわるのか

では、なぜそこまでしてオリジナル盤、そして初期のプレスにこだわるのでしょうか。理由は大きく3つです。

1. 音の鮮度

レコードは、マスターテープから作られた「ラッカー盤」を元にプレスされます。

このプレスの金型を「スタンパー」と呼びますが、当然ながら初期のスタンパーほど摩耗が少なく、マスターテープに刻まれた情報を忠実にレコード盤へ写し取ります。これが、オリジナル盤の音が鮮烈で生々しい最大の理由です。

2. 歴史と意図の尊重

オリジナル盤は、その時代のカッティング技術、プレス技術の結晶です。アーティストやエンジニアがスタジオで聴き、承認した「本来の音」がそこにあります。後年のリマスター盤も素晴らしいですが、制作者の意図が最も純粋な形で記録されたオリジナル盤に触れることに、大きな価値があります。

3. 揺るぎない資産価値

優れた演奏のオリジナル盤は、単なる音楽メディアではなく、文化遺産としての側面も持ちます。希少性と普遍的な需要から、その価値は時代を経ても色褪せません。

基本的に、どんなに素晴らしい再発盤が出たとしても、オリジナル盤の市場価値は暴落することはありません。

コラム「プロモ盤(白ラベル)は音が良いのか」

オリジナル盤とは少し異なりますが、しばしば話題になるのがラジオ局などへプロモーション用に配布された「プロモ盤」です。これらは通常プレスより製造が早く、音が良いと言われることがあります。その真偽や魅力については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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鑑定の補助的ポイント

オリジナルかどうかの最終判断は、あくまでレコード盤そのもので行います。

ジャケットは入れ替えられている可能性もあるため、補助的な情報として捉えるのが鉄則です。 その上で、盤面やジャケットから年代を推測するための、ポイントをいくつか解説します。

1. ラベル中央の「溝」の有無

レコードラベルの外周部、ちょうど溝が始まるあたりに、わずかな段差やくぼみがある盤があります。これが通称「溝(Groove Guard)」です。これは古い時代のプレスに見られる特徴で、年代を大まかに判断する分かりやすい指標の一つです。

溝ありED2
溝あり (初版)
溝なしED
溝なし (3版)

2. ジャケットの仕様

ジャケットはあくまで補助的な情報ですが、盤と年代が一致しているかを確認する上で役立ちます。特に英国盤でよく見られるのが、ジャケットの裏側でレコードの取り出し口の縁が内側に折り返されている「フリップバック(折り返し)」仕様です。これも古い時代のジャケットに見られる特徴です。

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【国別】主要レーベル・オリジナル盤の見分け方

鑑定の基本を踏まえた上で、ここからは国別・レーベル別の特徴を見ていきましょう。より詳細なラベルの変遷や多数の写真は、各ページでご確認ください。

英国盤の見分け方「Decca, EMI, Columbia」

英国盤はオリジナル盤鑑定の王道です。特にDeccaは初期SXL2000番台はすべてED1が存在するので、覚えやすいです。ある程度型番の数字で、年代と、初版のラベルの想像がつきやすいです。
多くのコレクターを悩ませる、EMIのラベルについても解説しています。

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SXL2000番代の初版はすべて左上にORIGINAL RECORDING BYの印字
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米国盤の見分け方「米LONDON Decca, COLUMBIA, RCA, Mercury, Connoisseur Society」

オーディオファイルに人気の高い、RCAやMercuryをはじめ、よりマニアライクなConnoisseur Societyをふくめた、米国レーベルを紹介しています。

ほこりっぽい気候なのか、モノを大切に扱わない国民性なのか、ヨーロッパのレコードと比べて、米国プレスは程度がよいものが少ないです。

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東独エテルナの見分け方

独自の美学を貫く東独エテルナ。コレクターの間で「Vステ」と呼ばれる貴重な最初期のステレオ盤から、時代ごとのラベルの変遷まで、その見分け方を詳しく解説します。

実はDeccaやEMIと比べても、より多くのカタログ数をほこります。
一部の人気作品をのぞき、オリジナルでも比較的安価に入手できる作品が多いのも魅力の1つ。ジャケットのアートワークもふくめて大好きなレーベルです。

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ポーランドMuzaの見分け方

東欧の隠れた名盤を多く産出したMUZA。西側とは異なる発展を遂げたラベルデザインの変遷から、おおよそのプレス時期を判断する方法を解説します。未知の演奏家に出会う喜びも、このレーベルの魅力です。

クラシック以外の、ジャズやポピュラー系も多く残しています。

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まとめ

オリジナル盤の鑑定は、
まず①「規格番号とラベルデザイン」でオリジナル期のレコードかを確認し、次に②「マトリクス番号」でどれだけ初期のプレスかを特定する、という手順が最も確実です。ジャケットは、その判断を補強する情報として活用します。

まずはお手持ちのレコードを一枚、手に取ってみてください。そして盤の内周部やラベルのデザインをじっくりと眺めてみましょう。そこには、そのレコードが歩んできた歴史そのものが、静かに刻まれているはずです。

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