
今回はワンポイント録音と、ジャンルに縛られないユニークな作品が多いことで知られるMA Recordingsから10枚紹介します。
創設者であり、プロデューサー兼エンジニアであるトッド・ガーフィンクルは、日本の音楽流通業界での経験を通じて、市場と芸術形式に対する独自の視点を培いました。
MAは日本語の「間」が由来です。
「挑発的で創造的な音楽的表明」を発表することを使命とし、そのカタログは、即興演奏、伝統的な形式、そしてマケドニアのようなあまり知られていない地域の音楽文化の探求を特徴とする、純粋なアコースティック音楽が中心です。
代名詞ともいえる録音技術、2本の無指向性マイクロフォンを「ワンポイント」ステレオ構成で使用するという手法で、ワンポイントらしい空間評表現を備えた録音が多数あります。
無指向性マイクは360度全方向から音を捉えるため 、楽器だけでなく、部屋全体の音響的個性をも記録します。これにより、エンジニアは録音の瞬間に最終的なバランスとサウンドステージを決定せざるを得なくなります。「ミックスで修正する」という選択肢は存在しません。
録音において、会場は受動的な容器ではなく、能動的な楽器として機能します。
すべての録音は、クラシックのコンサートホール、教会、ギャラリーといった、音響的に重要な意味を持つ広大な環境で行われ、スタジオが使われることはありません 。
レーベル別CD特集 - MA Recordings編
独断で10枚紹介します。
Todd Garfinkle - Prayers, Wishes, Illusions
MA Recordings – M001A

すべての始まりとなったアルバム、カタログ番号M001A 。
レーベル創設者のトッド・ガーフィンクルがピアノを、杉山茂生がベースを担当するチェンバー・ジャズのデュエット集です。
日本の松本市、ハーモニーホールで録音されました。使用されたピアノは、ベーゼンドルファー・インペリアル。
後発の作品と比べて、そこまで高音質録音である印象はありませんが、すべてはここから始まりましたので、レーベルを知るうえでは外せない1枚です。LPもリリースされています。
sera una noche - La Segunda
MA Recordings – M062A

同レーベルの代名詞とも言える作品。これを聴いてピンとこなければ、MA Recordingsの作品を聴く必要はないです。
タンゴの原型、フリージャズの即興演奏、そしてワールドミュージックのテクスチャーが見事に融合した独自の世界観。ガンダラ修道院で録音され、Bruel & KjaerのマイクモジュールからFostexのDVD-RAMレコーダーに直接信号が送られました。
オーディオファイル向けデモとしても申し分ない作品で、深い音場、背景の微細な情報、各楽器の質感と聴きどころはとても多いです。MA Rrecordingsと意識しなくても、この作品を耳にしたことがある人は多いかもしれません。
Begona Olavide - Salterio (M025A)
MA Recordings – M025A

古代の弦楽器であるソルテリオ(salterio)を中心とした古楽の画期的な録音。
このアルバムでは、スペインの音楽家ベゴーニャ・オラビデが、歴史的な描写に基づいて弦楽器製作者カルロス・パニアグアが丹念に復元した様々なモデルのソルテリオを演奏しています。
修道院で録音された自然なアンビエンス。石壁の空間へと消えていく、繊細な減衰に耳を澄ませてください。
Maria ana bobone - Senhora da Lapa
MA Recordings – M046A

歌手マリア・アナ・ボボンによるポルトガルのファドの先進的な探求。このアルバムは、ボボンの純粋で正確なヴォーカルを、ジョアン・パウロの「超モダン」なピアノと組み合わせることで、伝統的なファドとは大きく異なります。その結果は、「荘厳でありながら印象派的なフランス/ブラジル風のロマンティックな新古典派室内楽」と評されています。
ポルトガルのリスボンにあるゴシック様式の大聖堂で録音されました 。この大きく響きの良い空間の選択は、録音にも大きく貢献しています。
Vlatko Stefanovski & Miroslav Tadic - Krushevo
MA Recordings – M044A

2人のヴィルトゥオーゾ・ギタリスト、ヴラトコ・ステファノフスキとミロスラフ・タディッチによるコラボレーション。アルバムは、伝統的なマケドニア民謡の器楽デュエット・アレンジで構成されています 。
この音楽は本質的に複雑で、しばしば5/8、7/8、11/8といった変拍子を特徴とし、プログレッシブで名人芸的な演奏が求められます。
会場の観点から見れば、おそらく最も象徴的なMAの録音です。
1997年6月、マケドニアのクルシェヴォにあるマケドニウムという、視覚的にも見事な未来的な「宇宙船」のような建造物の内部で録音されました。96 kHzのデジタル録音。
聴きどころは、会場そのものの響きです。長く、複雑で、美しい残響です。
Mark Nauseef - With Space in Mind
MA Recordings – M020A

多才で創造的なパーカッショニスト、マーク・ナウシーフによるソロ・パーカッション・アルバム。
このアルバムは、ナウシーフが別のMA録音でハーモニーホールで演奏した経験に触発され、パーカッションでその空間を探求したいと思ったことから生まれました 。
松本市、ハーモニーホールで録音。ナウシーフは、カール・オルフが設計した「チャイム・バー」や、中国のエキゾチックなウィンド・ゴングなど、多種多様な楽器を使って空間を「励起」させます 。
静かで繊細な音(きらめき、ベル)と、ゴングやドラムの爆発的なパワーなど、ダイナミックレンジが広い録音で、オーディオファイル向け。ダイナミクス、空間、そして複雑な音色を再現するテストディスクとしてもおすすめです。
La Chimera - Buenos Aires Madrigal
MA Recordings – M063A

アンサンブル、ラ・キメラによる冒険的で創造的なプロジェクト。
アルバムの副題は「アルゼンチン・タンゴとイタリアン・マドリガル」で、初期バロックと20世紀のタンゴという、一見すると異質な二つの音楽世界を見事に融合させています 。アンサンブルには、リュート、ヴィオール、バンドネオンなど、両方の伝統からの楽器が含まれています 。
バンドネオンの鋭くリードの効いたアタックと、リュートやギターの繊細で共鳴するプラックとのバランスに耳を傾けてください。
ema ito - Bach: Goldberg Variations
MA Recordings – M024A

同レーベルは、純粋なクラシック作品はそれほど多くありません。
伊藤栄麻による、バッハ:ゴルトベルク変奏曲。彼女自身の1903年製スタインウェイ&サンズ モデルDピアノを使用して録音されました。
この作品は、アナログ/デジタル方式で同時録音されており、アナログはハイレゾとLP用に、デジタル録音はCD用に制作されています。
Chika Edanami, Hiroshi Nagao - Après un Rêve
MA Recordings – MAJ506

ヴァイオリニスト、枝並千花のMA Recordingsからのデビューアルバムで、長尾洋史が伴奏を務めています。フランクとフォーレのソナタ、そしてミーシャ・エルマン編曲による表題曲を含むフランスの作品集。
2008年7月に 、「コピスみよし」としても知られる三芳町文化会館で録音されました 。セッションはトッド・ガーフィンクル自身がエンジニアを務め、ディレクターは野田智子。
V.A. - MA on SA
MA Recordings – M053A

レーベルのカタログへの入門であり、同時にSACDフォーマットの技術的ショーケースとして設計されたSACDサンプラー。カタログから32トラックを収録し、レーベルの多様な音楽世界をパノラマ的に展望できます。
オリジナル録音ではなく、リマスタリング・プロジェクトです。
鍵となるのは、ガーフィンクルとマスタリング・エンジニアの藤田厚夫氏によって行われた細心のプロセスです。彼らはSADIEデジタル・オーディオ・ワークステーションを使用し、信号経路全体にCRYSTAL CABLEを使用したことであり、ガーフィンクルはこれが結果として生じたサウンドの「優雅さ」の要因であると述べています 。
このディスクはハイブリッドで、CD層と、SACD層に別々の音源を収録しています。
レーベル最初の1枚としてもおすすめです。
以上10枚紹介しました。
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