
レコードを手に取るとき、私たちはまずその「顔」であるジャケットに触れます。そして、聴き終えたレコードを棚に戻す。この一連の所作と、整然と並んだレコード棚を眺める時間もまた、レコードを愛する者にとっての喜びの一つです。
この「レコード棚の美しさ」を決定づける、重要な要素が「外袋」です。今回はレコード外袋 (アウタースリーブ)について掘り下げます。
【結論】私の答えは、ただ一つ。「フチなしのサイドシール」であること
レコード外袋には、シール形式や開口部の違いでいくつかの種類が存在します。しかし、私が使うのはただ一つ、「フチなし加工されたサイドシール」の外袋です。
理由は「レコード棚に並べた時の見た目が、圧倒的に美しいから」です。この一点につきます。
もちろん、他の形式にもメリット・デメリットは存在します。それらを理解した上で、なぜこの結論に至ったのかを、解説していきます。

レコード外袋、それぞれの「形式」を比較する
外袋の形式を比較します。
1. 私が愛用する「フチなしサイドシール」
- 構造
1枚のフィルムを半分に折り、左右の両サイドを熱で圧着したタイプ。さらに、その圧着部分(フチ)を熱で裁断し、極限まで細く加工した特殊なものです。 - 評価
レコード棚に並べた時に、フチがほとんど見えず、この上なく美しい。
底は「折り返し」で継ぎ目がないため、底抜けの心配がありません。
特殊な加工のため、やや高価で、入手先が限られます。
2. 一般的な「底シール(フチあり)」
- 構造
これが、最も一般的に流通しているタイプかもしれません。2枚のフィルムを重ね、袋の底面を幅広に熱圧着しています。 - 評価
この底に来る潰れたようなフチの見た目が、私はどうしても好きになれません。 レコード棚に並べた時に、この部分が不揃いな線となって現れ、全体の美観を損ねてしまうのです。耐久性の面でも、レコードの重みが圧着部分に直接かかるため、長期的に見ると不安が残ります。
3. テープ付き(蓋付き)
- 構造
開口部に折り返しの蓋と、封をするためのテープが付いたタイプです。 - 評価
ホコリは防げますが、開け閉めが非常に面倒です。さらに、テープの粘着部分が誤ってジャケット本体や貴重な帯に貼り付く大惨事が起こるリスクがあります。
密閉性が高いがゆえに湿気がこもりやすく、カビの温床になる可能性も否定できません。
4. 特殊な選択肢:UVカットタイプは有効か?
- 概要
ディスクユニオンなどで販売されている、紫外線(UV)をカットする特殊なフィルムを使用した外袋です。 - 有効性
蛍光灯やLED照明から出る微量の紫外線による色褪せを軽減する効果は、間違いなく期待できます。お気に入りのジャケットを部屋に飾りたい、というニーズには有効な選択肢です。
【最重要】過信は禁物。直射日光には無力です。
- この機能は、あくまで室内光レベルの弱い紫外線を軽減するためのものです。なぜなら、室内光と直射日光では、紫外線のエネルギー量が桁違いに違うからです。
- UVカットフィルムは、素材に練り込まれた「紫外線吸収剤」が紫外線のエネルギーを熱に変えて放出することで機能しますが、直射日光のような強力なエネルギーを浴び続けると、この吸収剤はすぐに能力の限界を超えて飽和し、効果を失ってしまいます。さらに、吸収剤やフィルム自体が破壊され、劣化してしまいます。
- 美術館がUVカットガラスを使うと同時に、照明を厳密に管理し、何よりも「直射日光を絶対に当てない」ことを鉄則としていることからも、その限界が分かります。
- UVカット外袋は、あくまで室内保管での「保険」や「プラスアルファの対策」と考えるのが正しい付き合い方です。
ジャケットに「ぴったり」な外袋を見つける、3サイズの使い分け
「フチなしサイドシール」を使うという前提の上で、次に重要なのが「サイズの使い分け」です。レコードジャケットは、年代や国によってサイズが微妙に違うため、ジャケットに合ったサイズの外袋を選ぶことが、美しさと保護の両面で非常に重要です。
【おすすめ製品】主要レコードタイプ別・サイズ早見表
私が実際に使っている外袋です。
サイズ | Sサイズ | Mサイズ | Lサイズ | Lサイズ UVカットタイプ |
メーカー | ディスクデシネ | ディスクデシネ | ディスクユニオン | ディスクユニオン |
サイズ(横×縦) | 319mm × 320mm | 320mm × 323mm | 325mm × 325mm | 325mm × 325mm |
厚さ | 0.1mm / 0.06mm | 0.1mm / 0.06mm | 0.1mm | 0.07mm |
主な対象 | Decca SXL | EMI ASD Columbia SAX | DG その他見開きジャケットなど | 部屋に飾りたい ジャケット |
購入先 | ディスクデシネ | ディスクデシネ | ディスクユニオン | Amazon |
サイズの使い分けと、厚さについての考え方
ジャケットを収納した時に、適度な余白があるのが理想です。
あまりにぴったり過ぎると、ジャケット、しいてはレコード盤にも負荷がかかりソリの原因になりかねません。
クラシックのレコードで考えると、DeccaのSXLシリーズはほとんどSサイズです。EMIやColumbiaはMサイズ、DGはLが多いです。2枚組や見開きはLサイズと考えてください。
表を見て分かる通り、同じ製品でも「厚さ」にバリエーションがある場合があります。 例えば、ディスクデシネのS・Mサイズには、しっかりとした保護性能の0.1mm厚と、より透明感の高い0.06mm厚の2種類が存在します。
私は、SサイズとMサイズについては、ジャケットの視認性を重視して、あえて薄い0.06mm厚タイプを愛用しています。 一方で、厚みのある見開きジャケットなどを入れるLサイズは、袋自体の強度も必要になるため、0.1mm厚が安心です。このように、ジャケットの種類だけでなく、自分が何を重視するかで厚さを選ぶのも、一つの楽しみ方です。
7インチレコードについての考え方
7inchも同じ事をやっています。
デシネの外袋 (186mm x 186mm x 0.06mm)の方が小さいので、これに入らないものはユニオンの外袋を使っています。
参考: プロダクション・デシネ - PP Sleeve for 7" "S" 100pcs (7"シングル用外袋 ジャスト "Sサイズ" 100枚セット)
【保管の基本】レコードを大切に保管するために
どんなに良い外袋を使っても、保管環境が悪ければ意味がありません。外袋選び以上に重要かもしれない、レコード保管の基本原則についてお話しします。
1. 光を避ける
直射日光は厳禁、室内光にも注意。レコードやジャケットにとって、紫外線は天敵です。直射日光が当たる場所に置くのは、色褪せだけでなく、盤の反りの原因にもなるため避けてください。
しかし、油断できないのが室内の照明です。特に、古いタイプの蛍光灯は紫外線の放出量が多く、長期間浴び続けると確実にジャケットの色褪せを招きます。
近年、美術品の保存を最優先する美術館や博物館が、展示照明を蛍光灯から「紫外線(UV)をほとんど放出しないLED照明」へと切り替えていることからも、その有効性がわかります。ご自宅の照明をLEDに替えることも、大切なコレクションを守るための有効な手段です。
2. 風通しを確保する
湿気とカビは最大の敵 日本の気候で特に注意したいのが、湿気によるカビの発生です。一度カビてしまったジャケットは、元に戻すのが非常に困難です。
レコードは、空気が動く、風通しの良い場所に保管するのが鉄則です。 押し入れの奥や、壁にぴったりとくっついた棚、床への直置きなどは、空気が滞留して湿気がこもりやすいため、最も避けるべき保管場所です。棚と壁の間に少し隙間を作るだけでも、空気の流れは大きく改善されます。
また、カビの対策には、レコードの洗浄も重要です。レコード洗浄については別記事で紹介しています。

【大切なジャケットを守るために】リングウェアを防ぐ、簡単ひと手間
ジャケットの宿命とも言える「リングウェア(レコード盤の丸い跡がジャケットに付くこと)」を防ぐための、非常に簡単で効果的な方法をご紹介します。
それは、「盤を入れた内袋を、ジャケットの後ろ側に重ねて外袋に入れる」という、たったこれだけの工夫です。

こうすることで、レコード盤の硬い縁がジャケットの表裏に直接当たることがなくなり、圧力が分散されます。特に、レコードを棚にぎっしりと収納している場合に、絶大な効果を発揮します。ぜひ一度試してみてください。
レコードの出し入れもしやすく合理的です。もちろん、この時使う盤の保護袋も重要です。盤面に優しく、静電気を帯びにくいレコード内袋がおすすめです。
レコード内袋については、こちらで解説しています。

レコード外袋のまとめ
結局のところ、外袋選びとは、自分が何を大切にするかで最適解は変わります。
私の場合は、それが「棚に並べた時の美しさ」でした。そのために「フチなしサイドシール」以外の選択肢はありません。
そして、その美しさを長く保つためには、日々の保管環境にも気を配る必要があります。この記事が、あなたのレコードライフをより豊かにするための一助となれば、幸いです。
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