
「せっかく手に入れたレコード。最高の音で聴きたいけれど、なんだかチリパチ音が気になる…」 「大切なコレクション、いつまでも良い状態で保管したい。結局、どのインナースリーブを選べばいいんだ?」
そのお悩み、よく分かります。レコードを愛する多くの方が、盤のコンディションをどう維持するかに頭を悩ませています。レコードの安全な保管に、インナースリーブの選び方はとても大切です。
盤を最高の状態で再生するためには、まずその盤がきれいであることが前提です。レコード洗浄については別記事で紹介しています。

はじめに ー 最高の音は、最高の「保護」から始まる
この記事では洗浄後の盤を「どう守るか」に焦点を当てます。
国内盤のレコードで(CDでも)帯無しだったら買わないか、後で帯付に買い替えるこだわりはありますが、内袋についてはオリジナルのこだわりは全く有りません。
DeccaやEMIの当時の内袋でも同様です。ただ、この辺は捨てずに、保管はしています。

新品、中古を問わず、買ったレコードは必ずクリーニングした上で新しい内袋に入れ替えています。
新品のレコードの場合でも、盤に付いている剥離剤が悪さをする場合が多いので、クリーニング後、新しい内袋へ交換します。
大切なレコードを長く楽しむためには適切なレコード内袋(インナースリーブ)選びは欠かせません。
この記事では、レコード内袋の重要性から選び方、そしておすすめ製品まで紹介します。グラシン紙の特徴や正しい使い方も解説します。
【大前提】ビニ焼けや傷の原因となる「危険」な内袋とは?
化学的リスク「ビニ焼け」の恐怖
安価なレコードや古い中古盤に付属することがある、柔らかい半透明のビニール袋。これはレコード盤を化学的に溶かす「時限爆弾」です。この袋には、柔らかさを出すための「可塑剤」が大量に含まれており、それがレコード盤に移る(可塑剤移行)ことで、修復不可能なダメージ(ビニ焼け)を引き起こします。
物理的リスク「ただの紙スリーブ」が引き起こす傷と静電気
レコードに標準で付いてくる「ただの紙の内袋」も、実は最適ではありません。その理由は、素材の「粗さ」と「静電気」にあります。これについては後ほど詳しく解説します。
補足 ー 危険な袋と安全な袋の見分け方
ここで、「ビニ焼け」の原因となる危険なビニール袋と、安全なビニール袋を見分ける方法に触れておきます。
- PVC(ポリ塩化ビニル)製(危険)
一般的に「塩ビ」と呼ばれる素材です。比較的透明度が高く、しっとりと柔らかい質感をしています。少し厚手で、粘り気を感じるような手触りのものは要注意です。 - HDPE(高密度ポリエチレン)製(安全)
こちらは「ポリエチレン」の一種です。半透明で、カサカサ、シャリシャリとした硬めの手触りが特徴です。NAGAOKAの製品を触っていただければ、その質感がよく分かります。
買ったレコードの内袋で、よくわからないビニール製の内袋があれば、安全のためにHDPE製か紙製のものに交換することを強く推奨します。
内袋の素材によって「静電気」と「傷」のリスクが変わる理由
理由1 静電気のリスクを左右する「発生」と「蓄積」
静電気のリスクは、単純な「発生のしやすさ」だけでは決まりません。
「発生した電気が、どれだけその場に留まり続けるか(蓄積)」という視点が極めて重要です。
静電気は、異なる物質が擦れ合うことで電子が移動し、電位差が生まれる「摩擦帯電」という現象が主な原因です。物質がプラスとマイナスどちらに帯電しやすいかを示したものが、以下の「帯電列」です。この序列で位置が離れている物質同士ほど、大きな静電気が発生します。

ポリエチレン(HDPE)やコート紙の特性
- これらの素材は、レコード盤(塩化ビニル)と帯電列で比較的近く、摩擦で発生する静電気の量そのものは、実はそれほど多くありません。
- しかし、これらは非常に優れた「絶縁体」であり、一度発生した静電気をほとんど逃しません。そのため、出し入れを繰り返すうちに電気がどんどん「蓄積」され、結果としてホコリを吸い寄せる強い帯電状態になってしまいます。
グラシン紙の優位性
- グラシン紙は、①非常に表面が滑らかで摩擦が少ないため「発生」自体が少ないことに加え、②紙としての特性(微量な吸湿性)により、蓄積した静電気を自然に空気中へ逃がす(放電する)能力も持っています。
- つまり、「発生させにくく、かつ、蓄積しにくい」という、理想的な特性を両立しているのです。これが、グラシン紙が静電気対策として最も優れている科学的な理由です。
理由2 通常の紙製スリーブが傷を付けるメカニズム
「柔らかい紙で、なぜ硬いレコードに傷がつくのか」と疑問に思うかもしれません。答えは、ミクロの世界にあります。
- 繊維の刃
通常の紙を顕微鏡で見ると、木材パルプの繊維が絡み合っています。この繊維の断面は、レコードの繊細な音溝から見れば「ギザギザの刃」のようなものです。 - 研磨剤の混入
また、製紙工程で使われる薬品や、原料由来の微細な鉱物粒子(シリカなど)が紙に残っている場合があります。これらは「微細な研磨剤」として働き、レコードの表面を少しずつ削ってしまうのです。
紙製スリーブに入った新品のレコードを取り出す際に、「静電気でベッタリくっついている」「開けたら最初から擦り傷がある」という残念な経験はないでしょうか。
新品のレコードに最初から付いている「ヘアライン」と呼ばれる薄い擦り傷の多くは、このメカニズムによって、工場出荷時の紙スリーブで付けられてしまったものだと私は考えています。
【重要】静電気対策の考え方
ここで重要な点に触れておきます。
グラシン紙が静電気に強いとはいえ、レコード盤自体が乾燥した空気や再生時の摩擦で帯電していることに変わりはありません。内袋によって静電気の「発生」は抑えられますが、盤がすでに帯びてしまった電気を「除去」するわけではないのです。
盤自体の静電気を除去し、ホコリの付着を根本的に防ぐための対策(除電ブラシやイオナイザーなど)は、、後日改めて別の記事で紹介する予定です。
レコード内袋(インナースリーブ)のおすすめ4選
それでは、おすすめの製品を、性能指標と特徴の観点から徹底比較してみます。
製品名 | ![]() NAGAOKA RS-LP2 | ![]() ディスクデシネ Paper Inner Sleeves | ![]() マルゲリータ グラシン紙 LP-005 | ![]() アンダンテラルゴ AL-100 |
主素材 | HDPE | 内艶コート紙 | グラシン紙 | グラシン紙+中性紙 |
構造 | 単層・半円 | 紙製・角丸 | 単層・正方形 | 二重 |
ビニ焼けリスク | ◎(皆無) | ◎(皆無) | ◎(皆無) | ◎(皆無) |
対静電気 | 〇(良) | 〇(良) | ◎(優) | ◎(優) |
傷のつきにくさ | △(可) | 〇(良) | ◎(優) | ◎(極) |
カビ・湿気耐性 | △(標準) | △(標準) | 〇(良) | ◎(優) |
特徴 | 丸底で出し入れスムーズ | 内面が艶コートで滑らか | 非常に薄く、しなやか | 厚みがあり、究極の保護性能 |
1枚あたり単価 (算出元) | 約42円 (50枚セット) | 約62円 (50枚セット) | 約108円 (100枚セット) | 約297円 (100枚セット) |
最適解 | コスパ良く大量保護 | 紙の質感と盤への優しさを両立 | 貴重盤にも使える高品質 | 絶対に傷つけたくない至高の1枚に |
購入元 | Amazon | 公式 | Amazon | 楽天 |
1. NAGAOKA「RS-LP2」標準品質とコスパの王様
HDPE製の丸底スリーブです。静電気は十分に防いでくれますが(〇)、素材が非常に薄いため、物理的な保護性能は標準レベル(△)です。HDPEは吸湿性がほとんどないため、カビの直接的な原因にはなりませんが、袋内の湿度を調整する能力もありません(△)。何より安価で、大量のレコードを保護するのに最適です。
2. ディスクデシネ「Paper Inner Sleeves for LP」おすすめ紙スリーブ
「内艶コート紙」という特殊な紙で作られた製品です。内側をツヤツヤにコーティングすることで、盤面との摩擦を抑え、傷がつくリスクを低減しています(〇)。紙製のため、HDPEよりは僅かに吸湿性が期待できますが、日本の多湿な環境下では過信は禁物です(△)。紙のしっかりした質感を保ちつつ、盤を優しく保護したいという、良いとこ取りのインナースリーブです。
大量に収納する必要がある場合は、この内袋がお勧めです。これは1000枚単位で利用しています。
参考: Paper Inner Sleeves for LP (50/100pcs) - LP用/紙製内袋 (50/100枚セット) (Accesary)
3. マルゲリータ「グラシン紙 LP-005」薄いがしなやかで高品質
ここからが、究極の保護性能を誇る「グラシン紙」の世界です。
グラシン紙は、その素材特性から静電気の発生が極めて少なく(◎)、表面が非常に滑らかで盤面を傷つける心配もまずありません(◎)。ただ、この製品は単層で非常に薄く、レコード盤が透けて見えるほどなので、吸湿・防湿性能は二重構造のものには一歩譲り「良(〇)」と評価します。薄さと少し大きめサイズゆえに、近年の180g重量盤でもスムーズに収納できます。
この値段なら有りだと思います。これも何セットか使っていますが、薄くて破れた経験は有りません。ただ、室内の照明などの明かりであっても、光があたる環境だと良くないかもしれません。
まず本当にグラシン紙かどうか。触れて使ってみた限りは〇〇で購入したグラシン紙製と変わらず、まず問題ないように思います。
引用元: Amazon
〇〇製と比べて良い所は、サイズのジャスト感と単価です。サイズに関しては全く問題ありません。
古いレコードはジャケの底が割れていることが多く、僕もよく内側から紙を貼り修理するのですが、そうすると内側は狭くなるんですよね。それでもすっと入ってくれるスムースなサイズです。
品質も家内制手工業的なばらつきがなく、安定しています。
値段はこれ以上安いと逆に不安になります。
今のところ全く問題がなく、購入を続けたいと思っていますが、本当にビニ焼けに効果があるのか、逆に悪影響がないのかは、分かりません。
4. アンダンテラルゴ「AL-100」内側にグラシン紙、外側に上質紙を採用
まさに究極のレコード内袋です。
内側に最高品質のグラシン紙を採用しているため、対静電気(◎)、傷のつきにくさ(◎)は最高レベル。それに加え、外側がしっかりとした中性紙という贅沢な二重構造が、湿気を効果的に遮断・吸収するため、カビ・湿気耐性は「優(◎)」と評価しました。物理的な圧力からも盤を守ってくれる安心感は随一です。至高の1枚のためにこそ、その真価を発揮します。
本当は全部これを使いたいですが、なかなか良い値段なので…。それでも500枚以上はこれに入れています。
丁寧に作られています。これなら安心して保管できます。
引用元: ヨドバシカメラ
値段がもう少し安ければ言うこと無しなのですが・・・
本品は紙製で通気性・吸湿性があるためLPレコードの防かびの目的で購入、袋の角が丸く処理されているため、ビニール製の内袋に比較して取り出しやすく、しまいやすいのは思わぬ副次効果!
引用元: ヨドバシカメラ
少々高いと感じられる方もおられると思うが、大切なLPレコードの十分の一以下の価格で、安心と取り扱いやすさを変えるのだから安いものだと思う。

レコード内袋の正しい入れ方
人によって、それぞれの作法があると思いますが…。私の流儀は下記の通りです。
- 新品、中古を問わず、買ったレコードをクリーニングする。
- レコードの端を持って、傷がつかないようにゆっくりと内袋に入れる。
(レコードの盤面を触らないように) - レコードが完全に入ったら、内袋の開口部を上に向けて保管
(ジャケットの中には入れない)
まとめ ー 内袋選びは、レコードへの愛情表現
レコード内袋の世界は、知れば知るほど奥深いものです。 コストを重視するのか、盤面保護を最優先するのか、あるいはジャケットに入れた時の佇まいまでこだわるのか。どのインナースリーブを選ぶかは、あなたがそのレコードとどう付き合っていきたいか、という愛情表現そのものと言えるでしょう。
盤を最高の状態で守る内袋を選んだら、その「顔」であるジャケットも美しく保ちたいものです。
ジャケットの保護については、別記事の「レコード外袋の選び方」で詳しく紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。一つ一つの丁寧な積み重ねが、豊かで満足のいくレコードライフへとつながります。

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