インサイドフォースが発生するしくみ、レコードプレーヤーの正しいインサイドフォースキャンセラー(アンチスケーティング)の具体的な調整方法について解説します。
スタティック、ダイナミック方式、リニアトラッキング、ピュアストレートアームなど‥。
トーンアームはいろいろな原理がありますが、すべての要素を満たすものは無いと思います。
今回は、オフセット角のあるアームでは避けられない、インサイドフォースについて考えてみたいと思います。アンチスケーティングと表現される場合もありますが、同じ意味で使われていることが多いです。
インサイドフォースキャンセラーについての考察
まず、インサイドフォースがどうして発生するのか考えます。
インサイドフォースは、オフセット角があるアーム特有の問題です。
トラッキングエラーが発生しないリニアトラッキングアーム、オフセット角が無いピュアストレートアームでは考える必要がありません。
インサイドフォースが発生するしくみ
回転するレコードに針を下すと、まず、針先はF1(接線方向)に引っ張られます。
実際はアームがF1方向に伸びることは無いので、F1の力は、F2とF3の2つに分解されます。
ここで、F3の力は、アームの支点に対して掛かっていますので、針先から見た場合、内周側に引っ張られる力、F2が発生します。この内周側に引っ張られる力をインサイドフォースと呼びます。
インサイドフォースは、トラッキング角の大きさで値が変わりますので、厳密にいえば、内周と外周でも大きさが異なります。
内周側に引っ張られる力、インサイドフォースをキャンセルするための機構が、インサイドフォースキャンセラー(アンチスケーティング)です。
インサイドフォースキャンセラーの構造
インサイドフォースは、一定の値ではありませんので、インサイドフォースキャンセラーも固定値が最適解になることはありません。
トーンアームによっては、固定値ではなく、内周と外周で値を替えることができるモデルもあります。
Vertere - SG-1 Tonearm
Ikeda - IT-345
DUAL - 1249
インサイドフォースキャンセラーの調整方法
最初にアジマスの調整を行う
ヘッドシェルの左右の傾きを調整します。
レコードの音溝はV字型になっていて、内壁(左側)が左ch、外壁(右側)が右chです。
針が音溝に対して、まっすぐ下りないと、その時点で左右の音圧差や音のセパレーション、定位に狂いが生じます。
ヘッドシェルの上が平らの場合は、小型の水準器を置く方法が手軽です。
傷がついても良いレコードを用意して、ヘッドシェルの上に水準器を置き、傾きをチェックします。
水準器の場合は、高さの調整も同時に行えるメリットがあります。
デメリットは、水準器の重さ分、針圧が強くなり、カートリッジに負担がかかります。
ヘッドシェルの上が平らではない場合、アクリルブロックで調整するが良いと思います。
この場合も傷がついても良いレコードを使った方が良いです。
最適なインサイドフォースキャンセラーの考え方
溝の切っていないレコードや、LDなどでアームが止まるように調整する方法は、間違いです。
溝の切っているレコードで調整しない意味がありません。
レコードと摩擦力が異なること、音楽再生する場合、音溝の壁があるからです。
次に、針圧に合わせてメモリがあるタイプ。
針圧2.0gなら、メモリを2.0に。という種類でも、値は無視して構いません。
感覚的に、針圧と同じ値にするとインサイドフォースキャンセラーが掛かり過ぎています。
下の動画は、Fidelixの中川氏によるものです。
インサイドフォースキャンセラーを掛けない状態で、レコードを再生した時の針先の動きを拡大して録ったものです。
インサイドフォースキャンセラーを掛けない状態だと、内周側に針先が動くのに対して、あとからトーンアームが引っ張られているようなイメージです。
結果として、内圧の方が強くなるので、左chの音が大きくなります。
センター定位するはずの人の声が左chに寄っていると感じる場合、インサイドフォースキャンセラーを少しずつ強くして、定位がセンターに来るようにするのが良いと思います。
インサイドフォースキャンセラーを掛けることで、左右の音圧差=音量が均一になる反面、アームに余計な力が加わることでアームの感度の低下、音が悪くなるというデメリットがあります。
キャンセラーを掛けない状態で音圧差が気にならなければ、キャンセラーを使わなくても構いません。
テラーク盤のチャイコフスキー1812年のような、振幅が大きい溝をトレースする場合、たいていのアームはインサイドフォースキャンセラーを掛けないと音飛びします。
音飛びしないのと、音が良いのは別問題なので、トレースが難しい盤を基準にする必要は無いと考えています。
インサイドフォースキャンセラー まとめ
- インサイドフォースは、オフセット角があるアーム特有の問題
- ピュアストレートアームや、リニアトラッキングアームでは考慮する必要がない
- インサイドフォースキャンセラーは、内周側に針先が引っ張られる力をキャンセルするためのもので、アンチスケーティングとも呼ばれる
- インサイドフォースキャンセラーの仕組み
回転するレコードに針を下すと、針先が接線方向に引っ張られる
アームの構造上、この力が内周側への力に変換される
インサイドフォースキャンセラーはこの力を打ち消すために考えられた - インサイドフォースキャンセラーの種類
糸を使用したタイプ(一般的)
ウェイトを使用したタイプ
内周と外周で値を変えられるモデルもある - アンチスケーティングの調整方法
事前にアーム高さ、オーバーハング、針圧、アジマスなど他の項目をきちんと調整する
溝の切っていないレコードでの調整は間違い
目盛りがある場合、針圧と同じ値にすると掛かりすぎる傾向がある
センター定位を基準に少しずつ強くしていく
アンチスケーティングを強くすると、定位が右に寄る - インサイドフォースが定量ではないため、キャンセラーに絶対的な最適値は存在しない
- 音圧差が気にならなければ使用しなくても良い
- 振幅の大きい溝をトレースする場合は必要になることが多い
- 音質と音飛び防止のバランスを取ることが重要
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