
UpTone Audio社のEtherREGENは、「オーディオ用スイッチングハブ」というカテゴリーの中でも、特に独自の設計思想を持つ製品です。
多くの製品が既存のスイッチをベースに改良されるのに対し、EtherREGENは音質に影響を及ぼすノイズを体系的に低減するためにゼロから設計された、まさに「オーディオデバイス」と呼ぶべきアプローチを採っています。
その核心技術である「ADIM™」の解説から、実際の使用感や10Mクロックとの連携による効果、そして現在開発が進められている後継機「EtherREGEN Gen2」の最新情報まで、EtherREGENを網羅的に紹介します。
EtherREGENの核心 ー なぜ「ただのスイッチ」ではないのか?
EtherREGENの価値を理解する上で最も重要なのが、その独自の設計思想です。一般的なオーディオ用ハブが、既存のスイッチに高品位な電源やクロックを追加する「改良品」であるのに対し、EtherREGENは高コストな6層基板を用いてゼロから設計されています。
Back to technical features:
EtherREGEN has two isolated data/power/clock domains. Each isolated domain is re-clocked using 10GHz-capable ultra-low-jitter (less than 0.8 picoseconds) differential flip-flops.
The clocking system runs from an advanced, programmable, jitter-attenuating clock synthesizer with four differential outputs. It is referenced to an ultra-low-jitter/phase-noise Crystek CCHD-575 oscillator. Importantly, the clock distribution system (for the switch chip, the special Ethernet format conversion chips, and the high-speed flip-flops) is run differentially throughout. Special conversion buffers are positioned just millimeters from chips that require single-ended clocks.
Even the magnetics of the four Gigabit ‘A’-side ports are special. We chose an RJ45 module that utilizes 12 transformer cores in each port (most Ethernet ports have 2~6 cores), and ground their center-taps through capacitors in a way that blocks port-to-port AC leakage currents.
To support its performance, the power networks of the EtherREGEN are as sophisticated and costly as the rest of the design. We use 12 of the world’s lowest-noise, lowest-impedance integrated voltage regulators—the famous Linear Technology LT3045 and LT3042. Supporting both the voltage regulators and the data chips are 195 low-inductance, X7R and X5R capacitors sized and selected by their derating curves.
The EtherREGEN incorporates two newly introduced Ethernet transceiver chips—one on each side of the ADIM™. These advanced chips were very new at the time of design; UpTone was among the first OEM manufacturers in the world to engineer a product using them.
The main processor is an advanced, flexible, and fully managed switch processor—with integrated high quality PHYs and support for all current IEEE network protocols.
参考: EtherREGEN
独自の分離技術「ADIM™」
その核心となるのが、独自の分離技術「ADIM™(Active Differential Isolation Moat)」です。これは基板上に物理的な「堀(Moat)」を設け、上流(Aサイド)と下流(Bサイド)を電気的に完全に分離する技術です。 ADIM™は、データ伝送に伴うクロック位相ノイズがグラウンドに漏洩することを根本から防ぎ、上流のノイズからオーディオ機器を完全に切り離します。
このアーキテクチャこそ、EtherREGENが他の製品との大きな違いを生み出している点です。
EtherREGENの使いこなしと、音質の変化
私の環境における接続構成
このEtherREGENを導入する前は、同じくオーディオ用スイッチとして評価の高いSilent Angel N8を使用していました。N8も優れた製品ですが、本機の独自の設計思想に惹かれ、入れ替えを行いました。

メーカーはルーターとプレーヤーの間に本機を挟む構成を推奨していますが、私の環境ではルーターからEtherREGENに接続し、AサイドにNASやPC、そして電気的に完全に分離されたBサイドにオーディオプレーヤーを接続しています。
BサイドのLANポートは、高周波ノイズの発生を抑えるため、あえて通信速度を100Mbpsに制限した設計となっています。ここには、スリーエム製の4芯タイプのイーサネットケーブルを使用しています。
Aサイド側にはすべてBaaske社のアイソレーターMI1005を使用し、Bサイド側は直接イーサネットケーブルを接続しています。
運用上のポイント ー アースと「熱」について
本機はBサイド側にアース端子を備えていますが、これはAサイド側とのみ導通しています。私の環境ではAサイドの機器はLANアイソレーターを介しているため、アースは接続していません。
また、特筆すべきは本体の発熱です。内部の低ノイズレギュレーターが高品質な電源を供給し続けている証拠でもあり、私が運用している全てのオーディオ機器の中で最も熱くなります。
メーカーはこれを仕様と公表しており、24時間365日の連続稼働でもトラブルは経験していませんが、設置には風通しの良い場所を選ぶのが賢明です。
クロック入力の仕様と、私の電源環境
本機の外部10MHzクロック入力は、デフォルトでは75Ω仕様ですが、オーダー時に50Ω仕様を指定することも可能です。どちらが良いというわけではなく、使用するマスタークロックの出力インピーダンスに合わせることが重要です。私が使用している個体は50Ω仕様です。また、本機は使用するクロックケーブルによる音質の違いにも敏感だと感じます。
電源には標準付属品ではなく、GaN(窒化ガリウム)技術を採用したアダプターを使用していますが、私の環境では電源変更よりも、高精度な外部10MHzクロックを追加した際の方が音質への影響は大きいと感じました。

SFPポートの活用について
本機のAサイドにはSFPポートが搭載されていますが、メーカーはこれを必須のアップグレードとは推奨していません。EtherREGENは、その核心技術であるADIM™によってRJ45接続でも十分な電気的絶縁を実現しているため、無理に光接続を導入する必要はない、というのがその理由です。
私も現状はSFPを使用していません。
10Mクロックとの連携と音質傾向
EtherREGENのポテンシャルは、高精度な外部10MHzクロックと組み合わせることで、さらに引き出すことができます。 システム環境によって効果は異なりますが、私の環境で10Mクロックを導入したところ、音質は明確に向上しました。それまで使っていたSilent Angel N8と比較すると、雑味や付帯音が整理され、S/N比が向上することで、静寂の中から音楽がより滑らかに立ち上がるような印象を受けました。
私がこのEtherREGENという製品に興味を持つきっかけとなったのが、クロックの技術的背景を解説した記事の参考文献でもある、John Swenson氏の論文でした。
氏が、このEtherREGENの主要な設計者の一人であることを知り、その理論が製品にどう反映されているのかを確かめたいという思いから、購入に至りました。論文の理論と実際の製品の音を結びつけて考察するのも、オーディオの楽しみ方の一つでしょう。

また、10Mクロック自体の選び方や効果については、以下の記事で網羅的に解説しています。

後継機「EtherREGEN Gen2」の最新情報
初代EtherREGENは数々の賞を受賞し、5年間で3,500台以上を販売した後に生産を完了しました。現在、UpTone Audioはその後継機となる「EtherREGEN Gen2」の開発を進めています。 判明している主な強化点は以下の通りです。
- Bサイドのギガビット対応:初代では100MbpsだったBサイドが、Aサイド同様ギガビットに対応します。
- クロック性能の向上:さらに低ジッターのクロックシンセサイザーと、外部10MHzクロックのための高性能な正弦波-矩形波変換器を搭載します。
- 拡張性:光接続ユーザーのために、BサイドにもSFPケージが追加されます。
ただし、開発は最終段階にあるものの、最初の出荷は2026年1月頃になる見込みとのことです。過去にも開発の遅れがあったことから、これはあくまでも目安として捉えるのが賢明です。なお、回路やケースが全く異なるため、初代からの有償アップグレードは受け付けない方針とされています。
まとめ

- ゼロから設計された独自の分離アーキテクチャ
- 核心技術ADIM™による上流ノイズからの電気的絶縁
- 外部10MHzクロック入力によるアップグレード性
- 高品質な低ノイズ電源レギュレーターを多数搭載
- 本体が高温になるため設置場所に配慮が必要
- Bサイドが100Mbpsに制限されている(初代機)
- 生産完了。後継機(Gen2)の登場が予定されている
UpTone Audio EtherREGENは、ネットワークオーディオにおけるスイッチの重要性を広く知らしめた、貴重な一台と言えます。
音楽ストリーミングサービスはもちろん、NASなどに保存したローカルファイルを再生する場合においても、スイッチのようなネットワーク機器の見直しは、システム全体の音質を底上げする上で非常に有効なアプローチです。
コメント
コメント一覧 (5件)
匿名さま
EtherREGENは50Ω仕様ですか?
PMC Libraは50オームの矩形波なので、インピーダンスマッチングは必須です。
私は安価なクロックを使っていますが、それでもメリットはあると感じています。
電源やクロックケーブルでも結構変化すると思いますが、システムによってもクロックの差が出やすい、出にくいはあると思います。
5/22 のアーティクルで紹介されているPMC Libraを使っています。当時の為替レートではPMC Libraの方が高くなってしまいましたが、内蔵クロックと比べて空間表現の違いにあがなえませんでした。
本国サイトからcartに本製品を入れる方法が分からず、お聞きしましたが、よく見ると現在発注できないみたいですね。申し訳ありません。
これからもこのサイトでいろいろ勉強させてもらいます。
ありがとうございました。
コメントありがとうございます。
EtherREGENは直販しかしていないと思います。私も本国サイトから購入しました。
注文時に外部インピーダンスを50Ω指定もできます。価格は同じで、なにも指定しないと75Ω仕様だったと思います。
エテルナさん
はじめまして
以前のサイトを参考にさせていただいてsilent angelN8を3年前購入しました。
EtherREGENにも以前から興味ありましたが、どのサイトから購入したら良いのか 教えていただければありがたいです。