この記事は、オリジナル盤鑑定の全体像を解説した【完全ガイド】クラシックレコード・オリジナル盤の見分け方の一部です。

クラシックのレコード収集において、EMIは避けて通れないレーベルです。しかしその実態は「EMI」という単一レーベルではなく、複数のレーベルが合併と買収を重ねた巨大グループでした。
ここでは英国クラシックを軸に、EMIの成り立ちから傘下レーベルの番号体系、各国盤の音質差、そして現在の音源の行方までを整理します。
EMIの成り立ち コロムビアとHMVの合併
EMI(Electric and Musical Industries)は、1931年に英コロムビアとHMV(His Master's Voice)が合併して誕生しました。ただし「EMI」というレーベル名でレコードがリリースされるようになったのは1972年以降のことで、それまでは傘下の各レーベルがそれぞれの名義でリリースを続けていました。
英コロムビア
もともとは米コロムビアの英国支店として設立されましたが、1922年に独立。その後オデオンやパーロフォンを買収し、1928年には仏パテも傘下に収めています。
HMV
元の社名はグラムフォン(Gramophone Company)。ニッパー犬のトレードマークで知られる「His Master's Voice」の頭文字からHMVと呼ばれるようになりました。英グラムフォンの子会社としてドイツに設立されたのが、現在のドイツ・グラモフォンの始まりです。1925年にドイツ支店が独資本の別会社として独立したため、ドイツ市場向けの新レーベルとしてエレクトローラ(Electrola)を設立しています。
合併後の主な動き
1931年の合併後も、コロムビアとHMVはそれぞれ別のレーベルとしてリリースを継続しました。レコード収集の観点で重要な出来事を中心にまとめます。
- 1951年 米キャピトルを買収。以後、コロムビアやHMVの音源を米国市場向けにリリース(いわゆるエンジェル盤)。これに伴い、米コロムビアおよびRCAビクターとの提携が終了。
- 1958年 HMVレーベルより最初のステレオレコードをリリース(ASD 251、ビーチャム指揮シェヘラザード)。
- 1972年 「EMI」名義でのレコードリリースを開始。
- 1979年 EMI名義としての初のデジタル録音(ASD 3804、プレヴィン指揮ドビュッシー「管弦楽のための映像」)。
- 1982年 EMIとして初のCDをリリース。東芝EMIより発売で、カッティングとプレスはCBSソニーに委託。
EMI傘下のレーベルと番号体系
EMIのレコードを探す際に混乱しやすいのが、傘下レーベルごとに異なる番号体系です。クラシックのレコード収集でよく目にするものを整理します。
英コロムビア(Columbia)
モノラル期は33CX、ステレオ期はSAXが基本番号です。SAXシリーズはコレクター市場でも人気が高く、初期番号のSAX 2252(クリュイタンス指揮ラヴェル「ダフニスとクロエ」)などは高値で取引されています。
HMV
モノラル期はALP、ステレオ期はASDです。ASDシリーズの初期プレスは、セミサークルと呼ばれる白金のラベルデザインで知られています。
各国の対応レーベル
同じ録音でも、リリースされる国によってレーベル名と番号が異なります。
- ドイツ:エレクトローラ(Electrola)。ステレオ期の番号はSTC、SMEなど。
- フランス:パテ・マルコニ(Pathé Marconi)。コロムビア系はSAXF、FCX。HMV系はFALP、ASDFなど。
- アメリカ:エンジェル(Angel)。キャピトル傘下でのリリース。番号体系はSシリーズなど。
- 日本:東芝EMI(現 EMIミュージック・ジャパン)。AA、EACなど独自の番号体系。
各国盤の音質差
EMIのレコードを集める際に最も実用的な問題が、各国盤による音質の違いです。
Deccaは本国で製造したメタル原盤を各国に送ることで、プレス国による音質差をできるだけ抑えようとしていました。それでも英盤と仏盤、独盤には差があります。一方のEMIは、マスターのダビングに関してDeccaほど厳格ではなかったと言われており、各国盤の音質差はDecca以上に大きいのが実情です。
加えて、再発盤の音質変化も無視できません。初期プレスと後年のプレスでは音の傾向が大きく異なることがあり、「EMIサウンド」の全体像を掴みにくい原因になっています。
英盤を基準に考える
経験上、まず英盤を押さえておけば大きな失敗はありません。録音の多くは英国人スタッフが現地に赴いて収録しており、マスターも英国に持ち帰られているケースが多いためです。フルトヴェングラーのウィーン録音やカラヤンのミラノ録音など、大陸での収録であっても英国がマスターの拠点となっている例は少なくありません。
ただし例外もあります。仏のアーティストによる仏録音であれば仏盤の方が好ましいケースもありますし、一部のレコードでは独盤の仕上がりが良いこともあります。
英盤が存在しないケース
すべての録音に英盤があるわけではありません。海外のディーラーやカタログでは「No ASD」「No SAX」と紹介されることがあり、イタリアのみ、フランスのみでリリースされたタイトルも存在します。こうした場合は、最もマスターに近いと思われる国のプレスを選ぶことになります。
米エンジェル盤について
1951年のキャピトル買収後、EMI音源は米国ではエンジェル(Angel)レーベルからリリースされるようになりました。残念ながら音質面では英盤やオリジナルの欧州盤に及ばないものが多く、コレクター市場でも評価は高くありません。米盤しか入手できない場合を除き、積極的に選ぶ理由は少ないでしょう。
英盤と仏盤の音質比較として、サンソン・フランソワのラヴェルを取り上げた記事があります。
現在のEMI音源の行方
EMIは2011年以降の一連の買収劇を経て、レーベルとしては事実上消滅しました。主な流れは以下のとおりです。
- 2007年 投資ファンド、テラ・ファーマに買収される。
- 2011年 シティグループがEMIの全株式を取得。レコード部門はユニバーサル・ミュージックが買収。音楽出版事業はソニーを中心とした企業連合が買収。
- 2013年 ユニバーサルがパーロフォン・レーベル・グループをワーナー・ミュージック・グループに売却。
- 2018年 EMI Music Publishingをソニーグループが買収。
この結果、かつてのEMI音源は現在ワーナーとユニバーサルに分散しています。CD・SACDの再発においても、同じマスターを使用していながら販売元が異なるケースが見られます。


上の写真は、同一マスターから制作されたSACDの例です。左が東芝EMI時代のリリース、右がワーナーミュージック・ジャパンからの再発盤。レーベルの買収によって販売元が変わっていますが、音源そのものは共通です。東芝EMIとワーナーのSACDには、このように共通マスターを使用しているタイトルが多数あります。
クラシックレコードのオリジナル盤が持つ魅力と、簡単な見分け方をまとめました。ぜひ、あなたのコレクション鑑定にご活用ください。

Roon
SACD
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