
レコードを聴くたびに気になる「チリパチ」ノイズ。せっかくの音楽体験が台無しになってしまう、と感じていませんか?
実はそのノイズの多くは、適切な洗浄で改善できます。究極を言えば「超音波」と「バキューム」の二刀流が理想ですが、もっと大切なのは、あなたの目的と予算に合った最適な方法を見つけることです。
この記事では、レコード洗浄がもたらす「3つの明確なメリット」から、手軽な方法、そして「超音波式」と「バキューム式」の長所・短所まで、私が試してきたすべてを詳しく解説します。
最後まで読めば、あなたのレコードコレクションを最高の音質で蘇らせる、最適な一台が必ず見つかるはずです。
この記事を読むとわかること
- レコードを洗浄することで得られる「3つの明確なメリット」
- 手軽な方法から、本格的な洗浄機まで、洗浄方法のすべて
- 超音波式とバキューム式の、それぞれの長所と短所
- あなたの予算と目的に合った、最適な洗浄機・クリーナーの選び方
レコードを洗うことで得られる、3つの明確なメリット
なぜ、時間と手間をかけてまでレコードを洗うべきなのか?その理由は、単に「きれいになる」だけではありません。
1. 音質の向上 ー 埋もれていた音が蘇る
洗浄の最大のメリットは、音質の向上です。ホコリやカビ、そして新品レコードに付着している離型剤が除去されることで、チリパチノイズが劇的に減少します。さらに、スタイラスが溝の情報を正確にトレースできるようになり、これまでノイズに埋もれていた楽器の音や、空間の響きが生々しく蘇ります。
2. 静電気の減少 ー ホコリの再付着を防ぐ
適切な洗浄と乾燥は、盤面の静電気をリセットする効果があります。これにより、再生時のノイズが減るだけでなく、保管中に新たなホコリが吸い寄せられるのを防ぎます。
3. カートリッジの保護 ー 大切な針の寿命を延ばす
汚れた盤を再生することは、ヤスリの上で針を走らせるようなものです。定期的な洗浄は、スタイラスへのゴミの付着を防ぎ、高価なカートリッジの寿命を延ばすことにも直結します。
【客観データで見る】レコード洗浄効果
では、実際に洗浄でどれほどの変化があるのでしょうか。私が使っている超音波洗浄機で、洗浄前後の状態を比較検証してみました。
溝の汚れはどこまで落ちたか?(マイクロスコープ比較)


今回使用したレコードは元々の状態が良かったため、家庭用のマイクロスコープでは劇的な差を視覚化するのは困難でした。しかし、洗浄の真価は、目に見えないミクロン単位の離型剤や、溝の底にこびりついた微細な汚れの除去にあります。
チリパチ音はどれだけ減ったか?(録音データ比較)
洗浄前
洗浄後
使用したレコードは、EMI ASD3081 白黒切手初版、クリスティーナ・オルティス (ピアノ)、パーヴォ・ベルグルンド (指揮)、ショスタコーヴィチ: ピアノ協奏曲です。
ディスクユニオンで、盤質B、2000円で買いました。
録音データはノーマライズのみで、他は未加工です。この録音データでもチリノイズが減少しているのが分かりますが、実際のリスニングでは、これ以上に改善効果は感じられます。僅かな差に聴こえるかもしれませんが、この「僅か」を追い求められるのが、レコードオーディオの面白いところです。
手軽な「手洗い」とその限界
レイカ バランスウォッシャー(塗布・拭き取り式)
最も手軽に始められる、レコード洗浄の「入口」。表面のホコリや指紋には効果的ですが、これだけで全てが解決するわけではないことも理解しておく必要があります。

- 準備や後片付けが非常に手軽で、思い立った時にすぐ使える。
- 専用液の洗浄能力が高く、表面的なホコリや指紋の油分には効果的。
- コストが比較的安く、洗浄を始める最初のステップとして導入しやすい。
- 電気を使わないため、どこでも静かに作業できる。
- 拭き取りが不完全だと、洗浄液の成分と汚れが溝に残り、新たなノイズ源になるリスクがある。
- 溝の奥にこびりついた離型剤やカビを、完全に除去するのは難しい。
- 拭き取る際に、クロスで盤面に微細な傷をつける可能性がゼロではない。
水洗い (ナガオカ - CLP02)
コストをかけずに、安全に洗浄効果を体験できる最良の方法です。ただし、洗浄後の乾燥に時間と場所を要するため、それなりの覚悟は必要になります。
後で紹介する、バキュームや超音波洗浄の前段階で使う方法もありです。

- 水道水で洗い流すため、洗浄液が盤面に残る心配が全くない、最も安全な方法の一つ。
- 目に見えるホコリや、軽いカビなどを物理的に洗い流す効果が高い。
- 汚れがひどい場合、中性洗剤の使用もできる。
- ランニングコストがほぼかからない。
- レコードを完全に自然乾燥させるための時間と、安全な場所が必要。
- 水だけでは、頑固な離型剤や油性の汚れを分解するのは難しい。
本格的な「洗浄マシン」とその選び方
専用マシンによる本格洗浄(超音波式 vs バキューム式)
本格的なレコード洗浄機には、「超音波式」と「バキューム式」の2つの方式があります。それぞれに一長一短があり、どちらが優れているという訳ではありません。あなたの目的や使い方によって、最適な選択は異なります。
比較項目 | 超音波式 | バキューム式 |
洗浄原理 | ミクロの泡で、溝の底から汚れを剥離 | 洗浄液で汚れを溶かし、液体ごと吸引 |
得意な汚れ | 離型剤、カビなど、こびり付いた汚れ | ホコリ、指紋の油分など、表面的な汚れ |
ランニングコスト | 安い(主に精製水) | 高い(専用の洗浄液が必要) |
汎用性 | 基本的に水洗い(一部例外あり) | 様々な洗浄液を試せる楽しみがある |
動作音 | 比較的静か(乾燥ファンを除く) | 大きい |
乾燥 | 時間がかかる(自然乾燥 or ファン) | 早い(吸引と同時にほぼ乾燥) |
おすすめ本格洗浄マシン6選 比較表
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メーカー | WEWU | HumminGuru | PERFECTION | トークシステム | KEITHMONKS | Degritter |
方式 | 超音波 | 超音波 | バキューム | 超音波+ブラシ | バキューム | 超音波 |
洗浄力 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
手軽さ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
乾燥 | なし | あり | あり | なし | あり | あり |
主な特徴 | 格安 | 浄から乾燥まで全自動 | 日本製 | ブラシと超音波 | 拭き残しがない | 圧倒的な洗浄力、静音性 |
購入先 | Amazon | Amazon | 楽天 | 販売休止 | ビックカメラ | 楽天 |
各洗浄マシンのメリット・デメリット
価格の安い順に紹介します
WEWU - 超音波洗浄機 レコード クリーナー セット
「超音波洗浄」という究極の世界を、圧倒的な低価格で体験できるのが最大の魅力。オーディオ専用機ではないと割り切り、工夫して使うことが前提の一台です。

- 超音波洗浄機としては圧倒的に安価で、導入のハードルが低い。
- 一度に複数枚のレコードを同時に洗浄できる。
- レコード以外のアクセサリー類の洗浄にも使える汎用性がある。
- 乾燥機能がなく、洗浄後の手間がかかる。
- オーディオ専用設計ではないため、長期的な耐久性やサポートに不安が残る。
- 動作音が比較的大きい。
HumminGuru - Ultrasonic Vinyl Record Cleaner
洗浄から乾燥までを全自動で行ってくれる手軽さは、一度使うと元に戻れません。洗浄性能はそこそこという評価もありますが、この利便性は唯一無二の価値を持っています。

- 超音波洗浄から乾燥までを全自動で行い、非常に手軽。
- コンパクトでスタイリッシュなデザイン。
- 全自動機としては比較的リーズナブルな価格設定。
- 洗浄液をろ過する機能がないため、複数枚洗浄すると水が汚れやすい。
- プラスチック製のパーツが多く、耐久性に懸念を持つユーザーもいる。
PERFECTION - PFT-VC1 BLANC PUR NEO
「メイド・イン・ジャパン」の安心感が光る、バキューム式の新たな定番機。動作音の大きさは覚悟が必要ですが、洗浄液を確実に吸い上げる基本性能の高さは信頼できます。輸入が途絶えた、VPIに変わるバキューム式定番クリーナーになりそうです。

- 日本製ならではの、しっかりとした作りと信頼性。
- 静電気が起きにくい素材を採用している。
- 付属のクリーニングブラシが非常に優秀。
- バキューム(吸引)時の動作音が非常に大きい。
- プラッターの逆回転機能が無い。
単品販売もしている、クリーニングブラシ<超極細>はこの手のタイプでは一番優秀です。
VPIユーザーにもおすすめです。
いわゆるデンターシステマ系の極細です。
トークシステム(ベルドリーム) - US-60V
「超音波+物理ブラシ」という、洗浄力だけをストイックに追求した一台。手間を惜しまず、洗浄効果を求める人向けの製品と言えるでしょう。現在入手困難なのが惜しまれます。

- 超音波の力に加え、物理的なブラシも併用することで、極めて高い洗浄力を発揮する。
- レコードの向きを変えることで、正逆両方向からの洗浄が可能。
- 水の温度を調整するヒーター機能がある。
- 乾燥機能が無いので、自然乾燥が必要。
- 現在、生産が一時停止しており、入手が困難。
私はこの製品を使っています。片面2分、向きを変えてもう2分、温度は37度にして洗っています。
水槽に汚れがたまるのが嫌なので、レーベルカバーを付けた状態で水道水で洗ってから超音波洗浄を行っています。また、同時に洗うのは10枚までにしています。
2Lの水に対してドライウェルを2-3滴加えています。
水にいろいろ混ぜて実験もしましたが、これが一番しっくりします。

また、レコードの乾燥台はこれを使っています。
KEITHMONKS - PRODIGY “JAPAN LIMITED” RECORD CLEANING MACHINE
バキューム式の「うるさい」という常識を覆した、静粛性と確実性が魅力です。溝を一本一本丁寧に吸引していく様子は、もはや「儀式」と呼びたくなるほどの説得力があります。

- 内周から外周に向かってトレースすることで溝ごとに吸引が可能。盤面に薬液が一切残らない。
- CDやDVDなどの光学系メディアのクリーニングもできる。
- コンパクトで、竹製の筐体がユニーク。
- 洗浄液は塗布するだけなので溝奥の汚れは取り出しづらい。
- 溝ごとに吸引していくため、洗浄にやや時間がかかる。
最近日本に上陸した英国のクリーニングマシンです。
もっと昔からあればこれを購入していたと思います。
レコードの溝単位で吸引するため、ベルベットなどを使った一般的なバキュームタイプの拭き残り問題をほぼ解消しています。また、バキューム音も静かです。
また、同社のクリーニング液はとても優れています。私は光学ディスク用のクリーニング液を愛用しています。
Degritter - Degritter MkⅡ
洗浄力、静音性、使いやすさ、デザイン、その全てにおいて現在考えられる最高峰の一台。価格も最高峰ですが、その価値は間違いなくあります。全てのレコード愛好家が夢見る最終到達点です。

- 強力な超音波洗浄(120kHz)と、特許技術の乾燥システムによる圧倒的な洗浄・乾燥能力。
- 洗浄液を常にろ過し、クリーンな状態を保つフィルターシステムを搭載
- 静音性が非常に高く、デザインも洗練されている。
- 価格が非常に高価。
- 専用の洗浄液以外は推奨されていない。
【結論】理想の洗浄方法と現実的なおすすめ
理想の追求 ー「超音波」と「バキューム」の二刀流
両方式は対等ですが、それぞれの長所は異なります。「溝の底から汚れを剥離させる」のが得意な超音波式と、「汚れた液体ごと完全に除去する」のが得意なバキューム式。
もし、予算や手間を度外視して「究極」の洗浄を目指すのであれば、この両方を組み合わせるのが理想である、と私は考えています。つまり、「超音波で根こそぎ汚れを浮かせ、その汚れた水をバキュームで完全に吸い取る」という手順です。
私自身は現在、超音波洗浄機のみを使用しており、その効果には満足していますが、これは究極の理想形と言えるでしょう。
あなたにとっての現実的な一台は?
- 「溝の奥の根本的な汚れを取りたいなら」→ 超音波式
- 「様々な洗浄液を試し、スピーディに洗浄したいなら」→ バキューム式
- 「手軽さとコストを両立したいなら」→ 塗布・拭き取り式
- 「まず洗浄効果を体験したいなら」→ 水洗いキット
まとめ ー 洗浄は最高の音楽体験への投資
どんなに完璧に洗浄しても、ホコリやカビだらけの古い内袋に戻してしまっては、全てが台無しです。洗浄という作業は、清潔なレコード内袋へ移し替えるまでがワンセットだと考えてください。盤を化学的・物理的リスクから守る、最適なレコード内袋の選び方も、ぜひ合わせてお読みください。
適切な洗浄は、レコードに刻まれた情報を余すことなく引き出すための、最高の音楽体験への投資です。この記事が、その一助となれば幸いです。
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