
SACDisoファイルの取り扱い方について。
一部のプレーヤーを除き、SACDisoファイルをそのまま再生することはできません。
ここでは、入手したSACDisoファイルを一般的なプレーヤーで再生可能なDSFファイルに変換する手順を解説します。
はじめに ー SACDiso資産をDSFファイルで解放する
SACDisoとは?多様な入手方法
SACDisoファイルと聞くと、ご自身でリッピングしたデータを想像する方が多いかもしれません。しかし現在では、Channel Classics RecordsやNativeDSD.comといった海外の高音質レーベルや専門サイトから、ディスクイメージそのものであるSACDisoファイルを正規にダウンロード購入することも可能です。
SACDisoは、SACD(スーパーオーディオCD)の持つ情報を1ビットも欠損なくアーカイブした、いわば「デジタルマスター」です。この貴重なデジタル資産を最大限に活用するための第一歩が、ファイル形式の変換です。
ISOイメージは、国際標準化機構 (ISO) の定義した形式の光ディスク用アーカイブファイル(ディスクイメージ)。このフォーマットは多くのソフトウェアベンダーがサポートしている。
参考: ISOイメージ Wikipedia
(途中省略)
他のアーカイブと同様、ISOイメージにはアーカイブ対象のCD/DVD/BD上(あるいは他の任意のディスクフォーマット)の全ファイルのデータが含まれる。それらは圧縮されていない。ファイルの内容だけでなく、ファイルシステムの持つ全てのメタデータとして、ブートコード、構造、属性なども含んでいる。
このような特徴から、ソフトウェアを物理媒体で配布する代わりに単にインターネットやLAN経由でソフトウェアを転送する際のフォーマットとして使われるようになった。
なぜDSFファイルへの変換が必要なのか?
SACDisoファイルのままでは扱いにくいデメリット(再生ソフトの制限、ファイル管理の煩雑さ)が存在します。DSFファイルに変換することで、以下の3つの大きなメリットが生まれます。
- 豊富なメタデータ
DSF形式は、アルバムアート(ジャケット写真)や詳細な曲情報(アーティスト名、アルバム名など)をファイルに埋め込むことができ、音楽ライブラリを美しく、見やすく管理できます。 - 再生互換性の向上
Roon、Audirvana、foobar2000といった主要な再生ソフトや、多くのネットワークオーディオプレーヤーで再生可能になります。 - 柔軟なファイル管理
1曲=1ファイルとなるため、プレイリストの作成、曲単位での評価付け、ライブラリの整理が劇的に容易になります。
※Foobar2000(要プラグイン)やlightMPDなどSACDISOをそのまま再生できるソフトも存在します
【基礎知識】DSFとDFF、どちらの形式を選ぶべきか?
SACDisoからDSDファイルを抽出する際、最初に突き当たるのが「DSF」と「DFF」という2つのファイル形式の選択です。この選択は、後のライブラリ管理と音質的な側面に影響を与えるため、それぞれの特徴を正確に理解しておくことが重要です。
メタデータを扱える「DSF」形式一択
個人で音楽ライブラリを管理する上では、メタデータ(タグ情報)を扱える「DSF」形式を選択するのが正解です。
- DSF (DSD Stream File)
Sonyが開発した形式。曲名、アーティスト名、アルバムアートといったメタデータをファイル内に記録できる標準仕様を持っています。これにより、PCやネットワークプレーヤーでライブラリを美しく、機能的に管理できます。 - DFF (DSD Interchange File Format)
Philipsが開発した形式。プロの現場での音声データ交換を主な目的としており、メタデータを記録する標準的な仕様がありません。
この違いにより、DFFファイルでは曲情報やジャケット画像が表示されず、ファイル名だけで管理する必要があるなど、大きな不便を強いられます。したがって、特別な理由がない限りDSF形式を選びましょう。
音質的な側面 ー 非圧縮データとしての価値
DSFとDFFは、どちらもDSD信号を記録するという点で音質的な優劣はありません。しかし、「非圧縮」という観点から見ると、DSFファイルとして保存することには、ディスク再生に対する大きなアドバンテージが存在します。
DSFはDSDにおける「WAV」のような存在
まず、DSFファイルは、PCM音源におけるWAVファイルのように、DSD信号をそのまま格納した「非圧縮」のコンテナ形式です。
SACDディスクで採用されるロスレス圧縮「DST」
シングルレイヤー盤などの一部を除き、市販されているSACDディスクの多く(特にクラシックなど収録時間が長いもの)は、限られたディスク容量に膨大なDSDデータを収めるため、DST (Direct Stream Transfer) というロスレス圧縮技術を使ってデータが記録されています。これはFLACやALACと同様に、音質を全く劣化させずにデータサイズを小さくする技術です。
ディスク再生に対するアドバンテージ
SACDプレーヤーは、DST圧縮されたディスクを再生する際、データを読み込みながらリアルタイムで伸長(解凍)するという処理を行っています。
一方で、リッピングツール(sacd_extract
など)でDSFへ変換するプロセスは、このDST圧縮をPCのパワーを使って事前に完全に「解凍」し、いつでも再生可能な非圧縮データとしてファイルに保存する行為です。
非圧縮のDSFファイルを用意することは、再生時にプレーヤー(ハードウェア/ソフトウェア)が行うリアルタイムでの解凍処理という負荷を取り除き、再生処理にリソースを集中させることを可能にします。これが、ディスク再生に対する一つのアドバンテージといえます。
目的別・主要変換ツール比較表
機能/ツール | Sonore ISO2DSD (GUI) | sacd_extract (CUI) | foobar2000 + プラグイン (GUI) |
おすすめユーザー | PC操作に不慣れな初心者 | 上級者、バッチ処理をしたい方 | foobar2000を普段から利用している方 |
対応OS | Windows, macOS, Linux | Windows, macOS, Linux | Windows |
長所 | ・直感的な操作で初心者でも簡単 ・ドラッグ&ドロップで変換可能 | ・動作が安定しており高機能 ・詳細なオプション指定が可能 ・バッチ処理などに強い | ・普段使いのプレーヤーで変換まで完結 ・強力なタグ編集機能 ・再生と変換をシームレスに行える |
短所 | ・開発が終了している ・別途Javaのインストールが必要 ・日本語タグの文字化け報告あり | ・コマンド操作に慣れが必要 ・初心者にはハードルが高い | ・複数のプラグイン導入が必要 ・設定がやや複雑 |
【初心者向け】GUIでの簡単変換ガイド (Sonore ISO2DSD)
マウス操作だけで直感的に変換できる「Sonore ISO2DSD」の導入から使い方までを解説します。
必要なファイルの準備
Java、ISO2DSD本体、sacd_extractの3つを準備する
- Javaのインストール
ISO2DSDはJavaで動作します。PCにJavaがインストールされていない場合は、まずJava公式サイトからダウンロードしてインストールしてください。 - ISO2DSDのダウンロード
Sonore公式サイトからiso2dsd_gui.jar.zip
をダウンロードし、任意の場所に解凍します。 - sacd_extractのダウンロード
ISO2DSDは内部的にこのツールを呼び出して動作します。GitHubのリリースぺージからお使いのOS(Windowsならwin64
、MacならmacOS
)に対応した最新版をダウンロードし、解凍しておきます。
設定と変換の実行手順
2つのファイルを同じフォルダに入れ、GUIを起動する
任意の場所に新しいフォルダ(例:「ISO変換」など)を作成し、その中に先ほど解凍したiso2dsd_gui.jar
とsacd_extract.exe
(Macの場合はsacd_extract
)の2つのファイルを配置します。
SACDisoファイルの指定と出力形式(DSF)の選択
iso2dsd_gui.jar
をダブルクリックして起動します。(Macで開けない場合は、ファイルを右クリックして「開く」を選択し、セキュリティ警告を許可してください)- [File] タブの [Browse] ボタンを押し、変換したいSACDisoファイルを選択します。
- [Output Mode] で [Sony DSF] を選択します。
- [Execute] ボタンをクリックすると変換が開始されます。完了すると、同じフォルダ内にアーティスト名のフォルダが作成され、その中にDSFファイルが保存されます。
※オリジナルのSACDISOのファイル名にラテン語などが含まれる場合、エラーメッセージが出て変換できない場合があります。その場合はファイル名を書き換えればOKです。
【中級者向け】foobar2000での変換ガイド
普段お使いの音楽プレーヤー「foobar2000」で、再生から変換までを完結させる方法を解説します。
必要な2つのプラグインの導入
SACD Decoder (foo_input_sacd
)
ISOファイルを読み込むためのプラグインです。SourceForgeの配布ページから最新版をダウンロードします。
DSD Converter (foo_dsd_converter
)
DSDファイルをDSF形式に書き出すためのプラグインです。同じくSourceForgeの配布ページからダウンロードします。
SACDisoファイルの読み込みから変換までの手順
プレイリストへの追加と「DSD Convert」機能の使い方
- foobar2000を起動し、メニューの[File] > [Preferences]を開きます。
- 左側の[Components]を選択し、[Install...]ボタンをクリック。ダウンロードした2つのzipファイルを両方選択して開きます。
- 「OK」を押し、指示に従ってfoobar2000を再起動します。
- 変換したいSACDisoファイルをfoobar2000のプレイリストにドラッグ&ドロップします。
- プレイリストに追加されたトラックをすべて選択し、右クリック。コンテキストメニューから[Convert] > [DSD Convert]を選択します。
- [Output format]で[DSF]を選び、[Destination]で出力先を設定後、[Convert]ボタンをクリックすれば変換が始まります。
【上級者向け】CUIでの詳細変換ガイド (sacd_extract)
コマンドラインツール「sacd_extract」は、GUIツールにはない詳細な設定が可能で、複数のファイルを自動で処理(バッチ処理)させたい場合など、慣れると非常に強力な武器になります。ここでは、コマンド操作に不慣れな方でも挑戦できるよう、準備から実行までを解説します。
準備するもの
sacd_extract
本体のダウンロード
まず、ツールの本体をダウンロードします。GitHubのリリースぺージにアクセスし、お使いのOSに合った最新版のファイルをダウンロードしてください。
- Windowsの場合:
sacd_extract-x.x.x-windows-x86_64.zip
- macOSの場合:
sacd_extract-x.x.x-macos-x86_64.zip
ダウンロードしたら、zipファイルを解凍しておきます。
ファイルの配置
使いやすいように、PCの分かりやすい場所に新しいフォルダを作成し(例: C:\Tools\sacd_extract
)、その中に解凍したsacd_extract.exe
(Macの場合はsacd_extract
)を配置します。
基本的な使い方 ー コマンドプロンプト、ターミナルの操作
sacd_extract
は、PCに命令を直接テキストで打ち込む「CUI(キャラクターユーザーインターフェース)」という方法で操作します。
コマンドプロンプト、ターミナルの起動方法
- Windowsの場合
スタートメニューを開き、検索ボックスに「cmd
」と入力してEnterキーを押すと、「コマンドプロンプト」が起動します。 - macOSの場合
「アプリケーション」フォルダ内の「ユーティリティ」フォルダにある「ターミナル.app」をダブルクリックして起動します。
sacd_extract
のあるフォルダへの移動
黒い画面が起動したら、まずsacd_extract
を置いたフォルダへ移動します。cd
というコマンド(Change Directoryの略)を使います。
- 入力例 (Windows):
cd C:\Tools\sacd_extract
- 入力例 (macOS):
cd /Users/あなたのユーザー名/Documents/sacd_extract
入力してEnterキーを押せば、そのフォルダに移動できます。
コマンドの組み立て方と実行
コマンドの基本構造は[実行ファイル名] [オプション] [入力ファイルパス]です。
SACDisoファイルのパスをキーボードで入力するのは面倒です。ほとんどの場合、ファイルやフォルダをコマンドプロンプトやターミナルの画面に直接ドラッグ&ドロップすると、パスが自動で入力されます。
まずこれだけ!鉄板おすすめコマンド
多くの場合、以下のコマンドで高品質なDSFファイルを抽出できます。まずはこのコマンドを試してみてください。
sacd_extract -s -c -i "C:\path\to\your\sacd.iso"
sacd_extract
: プログラムを実行せよ、という命令。-s
: 出力形式を互換性の高いDSFに指定するオプション。-c
: ほとんどのSACDisoはDSTロスレス圧縮されているため、それを展開する必須のオプション。-i "..."
: 入力となるISOファイルのパスを指定します。パスにスペースが含まれる可能性があるため、パス全体をダブルクォーテーション「"」で囲みます。
知ると便利な主要オプション詳解
より詳細な設定を行いたい場合は、以下のオプションが役立ちます。
オプション | 省略形 | 説明 |
--output-dsf | -s | (推奨)Sony DSF形式で出力します。 |
--output-dsdiff | -p | Philips DFF形式で出力します(タグ情報非対応)。 |
--2ch-tracks | -2 | ステレオ(2チャンネル)トラックのみを抽出。 |
--mch-tracks | -m | マルチチャンネルトラックのみを抽出します。 |
--convert-dst | -c | DSTロスレス圧縮を展開します。必須。 |
--output-dir | -o | 出力先のディレクトリを指定します。 |
--track | -t | 抽出するトラックを番号で指定します(カンマ区切り)。 |
【重要】変換後の仕上げ ー タグ&アートワークの管理
DSFファイルへの変換が完了しても、作業はまだ終わりではありません。快適な音楽ライブラリを構築するためには、最後にタグ情報とアルバムアートを整える、という非常に重要な工程が残っています。
変換後に直面する2つの代表的な問題
多くのSACDisoをDSFに変換すると、ほぼ必ず以下の2つの問題に直面します。
- 日本語タグの文字化け
SACDisoに記録されたメタデータ(曲名やアーティスト名)の文字コードが古い形式(Shift_JISなど)の場合、変換後のDSFファイルで曲名が文字化けしたり、正しく表示されないことがあります。 - アルバムアート(ジャケット写真)の欠落
変換ツールは基本的に音声データのみを抽出するため、ジャケット写真などのアルバムアートはファイルに含まれていません。
解決策 ー 高機能タグエディタ「Mp3tag」の活用(詳細は別記事へ)
これらの問題をまとめて解決し、DSDライブラリを美しく、かつ正確に管理するためには、高機能タグエディタ「Mp3tag」の使用を強く推奨します。
Mp3tagの導入方法から、文字化けした日本語タグの具体的な修正手順、そして各音楽プレーヤーで確実に表示されるアルバムアートの埋め込みテクニックまで、詳細な手順を以下の特集記事で解説しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
トラブルシューティングQ&A
変換エラーが出る、または途中で止まる
SACDisoファイルのパスに日本語などの2バイト文字が含まれているとエラーの原因になります。ファイル名と保存場所のフォルダ名を半角英数字にして試してみてください。それでもダメな場合は、SACDisoファイル自体が破損している可能性があります。
変換後のファイルに「プチッ」というノイズが入る
これは古いバージョンのsacd_extract
で報告されていたバグです。GitHubから最新版のsacd_extract
をダウンロードして使用することで解決します。ISO2DSDを使用する場合も、内部のsacd_extract
ファイルを最新版に差し替えることで改善されます。
まとめ
本記事では、SACDisoファイルを活用価値の高いDSFファイルに変換するための3つの主要なツールと、その具体的な手順、そして最も重要なタグとアートワークの管理方法について解説しました。
- 初心者の方は、まずGUIで直感的に操作できる「Sonore ISO2DSD」から試してみましょう。
- より詳細な設定やバッチ処理をしたい上級者の方は、「sacd_extract」のコマンドライン操作が強力な武器になります。
ご自身で所有するSACDからSACDisoファイルを作成する方法に興味がある方は、こちらの記事をご覧ください
※リッピング行為には、お住まいの国の著作権法が適用されます。日本の法律に関する注意点もまとめています。

この記事が、あなたのDSDミュージックライフをより豊かにするための一助となれば幸いです。
コメント
コメント一覧 (3件)
返信ありがとうございました。
参考にさせていただきます。
訂正
初心的な質問× →初歩的な質問〇
コメントありがとうございます。
ギャップレス再生の可否は、音源側ではなく再生側の問題です。NW-ZX300が対応しているかどうかです。
メーカーに確認するか、2Lなどの無料でダウンロードできるDSFファイルで実際に試してみるのが良いと思います。
こんにちは。
SACDクラシックをDSFファイルに変換してWalkman NW-ZX300に入れることを
検討しています。リッピングしたファイルはギャップレス再生は可能でしょうか?
初心的な質問で申し訳ございません。