
オーディオの音質改善手法として語られる「アース接続」。しかし、ただつなぐだけで本当に音は良くなるのでしょうか?
結論から言うと、アース接続の効果は、オーディオシステムと電源環境に大きく依存します。 シャーシ電位は下がりますが、それがノイズの減少や音質向上につながるかどうかは、実際に試してみなければ分かりません。場合によっては、アースをしない方が音が良いことさえあります。
この記事では、「ノイズ対策の特効薬」としてアースを語るのではなく、あなたのシステムでアースは有効か、安全に試すための「正しい考え方」と「測定手順」を解説します。
この記事で分かること
- オーディオアースの本当の役割(シャーシ電位とは)
- アースを安全に試すための、正しい測定と接続の全手順
- 海外製アンプなど、アース接続の注意点
- 最終的に、何を基準に判断すべきか
アース接続の目的は「シャーシ電位を下げる」こと
まず、オーディオにおけるアースの最も基本的な役割を確認します。それは「オーディオ機器の筐体(シャーシ)の電位を下げること」です。
なぜシャーシは帯電するのか?「シャーシ電位」とは
オーディオ機器は、内部の電源トランスなどの影響で、その金属製の筐体(シャーシ)がわずかに帯電します。この電圧が「シャーシ電位」です。この電位が不安定だと、音の濁りや歪みの原因になると言われています。
アースの役割
アースは、大地(0V)へとつながる基準点です。機器のシャーシをアースに接続することで、このシャーシ電位を大地へと逃がし、0Vに近づけて安定させることができます。
オーディオでは「一点アース」が推奨
オーディオシステムのアースを考える上で、重要な考えが「一点アース」です。オーディオ機器のアースを接続するのは1つだけにします。
なぜなら、オーディオ機器同士は、
- 3ピン電源ケーブルのアース線
- RCAケーブルなどの信号線のシールド線
という、2つの経路でアースがつながる可能性があるからです。
もし、複数の機器を電源ケーブル経由でアースに接続してしまうと、この2つの経路が閉じた回路(ループ)を形成します。この「アースループ」がアンテナのように働き、ノイズを拾ってしまい、ハムノイズや、音の曇りの原因になる可能性があります。
1点アースは、シャーシ電位が一番低い機器にします。
【コラム】オーディオ用コンセントのアース配線の考え方
「一点アースを実践するなら、アースを落とすコンセント以外は、壁の中のアース線もつながない方が良いのでは?」 これは、オーディオ専用の電源工事を考える上で、多くの方が抱く疑問です。
結論から言うと、オーディオ用に用意した全ての壁コンセントで、分電盤までアース線をつないでおくことを推奨します。
その理由は、壁の中のアース線が「シールド」として、外部の電磁ノイズが電源ラインに飛び込むのを防ぐ役割を担っているからです。
子ブレーカーと、壁コンセント間のアースがつながっていないと、そのアースケーブルがアンテナとしてノイズを拾うリスクもあります。
【実践】シャーシ電位を測定し、アースを試す手順
ここからは、テスターを使い、ご自身のシステムの状態を客観的に把握し、安全にアース接続を試すための具体的な手順を解説します。
準備するもの(テスター)
アース接続の確認にはテスターが必須です。私はSANWAのPM10というモデルを使用していますが、現行のPM11など、基本的な電圧測定ができるものであれば問題ありません。
コンセントの極性と相を確認する

アースを接続する前に、大元となるコンセントの状態を確認します。日本の一般家庭用コンセントは、通常、極性が決まっています。壁コンセントの差し込み口は、左右で長さが異なり、右の短い方がホット(L)、左の長い方がコールド(N)です。
コンセントの極性確認方法
コンセントの極性が間違っていないか確認します。
この状態で100V前後の数字が出ているか確認。
同様に反対のコンセント穴に刺して電圧を確認。
ホットの穴の方が電圧が高ければ正しい結線です。
相の確認 「複数コンセント使用時は要注意」
複数のコンセントを使用する場合、それらが同相であることを確認します。異相のコンセントを使用すると、音質劣化の原因となる可能性があります。
上の図でいうと、上の3つ(リビング、寝室、書斎)が同相、下の3つ(客間、子供部屋、キッチン)が同相です。
子ブレーカーとコンセントを1対1としている場合、各コンセントが同相かチェックを行います。
0V付近であれば同相、200V付近なら逆相
複数コンセントがある場合は、全てチェックする。
リード棒の長さが足りないと思いますので、延長コードなどを使って確認します。
経験上、1つのオーディオシステムの中に相の違うコンセントから給電すると音が悪くなります。
コンセントの極性よりも重要です。
シャーシ電位を測定し、それぞれの機器を正しい極性に
各オーディオ機器の電源プラグをどちらの向きで刺すのが最適か、シャーシ電位を測定して判断します。
同じ条件下でシャーシ電位の測定をするため、この時点では、アースはつながないでください。
パワーアンプによっては、プリをつながないで電源を入れると危険な場合があります。
テスターを交流の位置にセットし、リード棒の片側を手で押さえた状態で、もう片方を機器の金属部分(シャーシのネジなど)に当て、電圧をメモします。
3Pプラグの場合は、2P/3Pアダプターを使って向きを変える。
両者を比較して電圧が低い方が、その機器にとって正しい極性です。この作業を、オーディオ機器すべてで行います。
ケーブル側に極性表示が付いている場合でも、実測で電圧が低い向きにした方が良いと思います。
手持ちのオーディオ機器の極性を全て確認します。
【補足】どちらもシャーシ電位が変わらない場合は?
機器によってはどちらでもシャーシ電位が変わらない製品もあります。この場合は、どちらでも大きく変わりませんが、極性を決める方法として、クリスタルイヤホンを使う方法があります。
イヤホンの端子を機器の導通部分に接続し、電源プラグの向きを変えた時に聴感上ノイズが少ない方を正しい向きとします。
最も電位が低い機器にアースを接続する
システム内のすべての機器の極性を合わせた上で、最もシャーシ電位が低かった機器をアースポイントとします。電気は電位の高いところから低いところへ移動するため、一番シャーシ電位が低い機器に落とした方が、システム全体に与える効果が高いためです。
ただし、日本製の機器など、一部の製品は電源のインレットにアースピンがないもの、内部でアースをつなげていないものもあります。この場合は、アース線をシャーシにつなぐか、別の機器にアースをつなぎます。
アースをつないでも、シャーシ電位が変わらない場合は、内部でアースがつながっていないと考えてよいです。
【補足】壁コンセントのアースが生きているか確認する方法
壁コンセントのアース端子が、本当に大地アースにつながっているかを確認するには、テスターを使います。交流モードのまま、リード棒をコンセントのホット側(短い穴)とアース端子にそれぞれ接触させてください。100V前後の数字が表示されれば、アースは正しく接地されています。
【参考】アース接続によるシャーシ電位の変化
私の環境ではパワーアンプのシャーシ電位が一番低いので、パワーアンプにアースを落としました。
パッシブプリで電圧を測ってみました。
パワーアンプのアースを浮かした状態
21.04V

パワーアンプのアースを落とした状態
1.892V

パワーアンプのアースを落とすことで、RCAケーブルを通じて接続されているパッシブプリの電位が1/10以下に変わることが分かります。
同様にパッシブプリにつないでいるフォノイコライザーやDACの電位も変化します。
アース接続の応用と、知っておくべき重要知識
アースは非常に奥深く、単純なセオリー通りにはいかないことが多々あります。ここでは、判断に迷うケースや、より進んだ対策について解説します。
海外製アンプの注意点 ー 日本の特殊なアース事情
海外、特にヨーロッパの多くの国では、アース接続が厳格に定められています。そのため、海外製のオーディオ機器は、大地との間の抵抗値が非常に低い、高品質なアースに接続されることを前提に設計されている場合が多いです。
しかし、日本の一般家庭に普及している「単相3線式」という配電方式では、分電盤で中性線(ニュートラル)とアース線が接続(接地)されています。中性線には、家庭内の他の家電製品が発するノイズが乗っている場合があり、そのノイズがアースラインに影響を与える可能性が指摘されています。
このため、海外製のシビアな設計のアンプを日本のアースに接続すると、かえって音が悪くなる(ノイズが増える)というケースも少なくありません。
アースループとは?その対策
前半の「一点アース」で解説した、複数の経路でアースがつながってしまう現象が「アースループ」です。アースを接続した際に、かえって音が曇ったり、ノイジーに感じたりした場合、このアースループが発生しているのかもしれません。
これは、オーディオ機器同士が、
- 3ピン電源ケーブルのアース線を通じてつながるアース
- RCAやXLRケーブルなどの信号線のシールド(アース)線を通じてつながるアース
という2つ以上の経路でアースがつながってしまうことで発生します。この閉じた回路(ループ)がアンテナのように働き、ノイズを拾ってしまうことがあります。
注意点として、壁コンセントのアースを接地していない場合でも、3ピン対応の電源タップに、複数の機器を3ピンの電源ケーブルで接続すると、そのタップ内でアースループが形成される可能性があります。
アースループを防ぐ基本は「アースはシステム全体で1点に落とす」ことです。これを実現するためには、機器を2Pの電源ケーブルにするか、3P-2P変換アダプターを使って2ピン接続に変えるという対策が有効です。
最近では、高品位な3P-2Pアダプターも販売されています。

ただし、デジタルケーブルの場合は、内部にパルストランスが使われていることが多く、これがアース回路を電気的に分離(アイソレート)するため、アースループが形成されにくいという特徴もあります。
仮想アースは有効か?
近年、製品が増えている「仮想アース」ですが、これは大地アースとは目的が異なります。
仮想アースは、機器のシャーシに接続することで、高周波ノイズを吸収・減衰させる効果を狙ったアクセサリーです。大地アースのようにシャーシ電位そのものを0Vに近づけるものではなく、あくまで機器単体の電位を安定させることが目的です。
そのため、大地アースのようにシャーシ電位そのものを下げる、という効果は期待できません。
最終判断は「自分の耳」で
測定上、シャーシ電位が劇的に下がったとしても、それが必ずしも音質向上に直結するとは限りません。アースを接続することで、かえって音が悪くなるケースも実際に多くあります。
測定はあくまでも客観的な指標です。アースを接続した状態と、しない状態(アースを浮かせた状態)の両方で、必ずご自身の耳で音質の変化を確認し、より好ましいと感じる方を選んでください。
さらに進んだ電源・アースのノイズ対策
アースの最適化と合わせて、電源ラインそのもののノイズ対策も行うと、オーディオシステムの静寂性はさらに向上します。
電源ラインのノイズを測定する
ノイズフィルターは、ノイズを除去する反面、必要な音楽情報も削ぎ落としてしまうリスクがありますが、オーディオ機器以外の家電に使うことで、オーディオシステムへの悪影響を抑えつつ、オーディオシステムの電源環境が改善できます。
以下の記事で、ノイズフィルターについて紹介しています。

アースライン専用のノイズフィルター
私の環境では、オーディオシステムは、独立した専用の分電盤から電源を供給しています。
それでも、200Vの家電、具体的には夜間に稼働するエコキュートや、エアコンをつけると、アースをつなぐと音が悪くなります。
200Vが動かない時間帯はアースをつなぐほうが音が良いので、最適解を模索中です。
その過程で、アースライン専用のノイズフィルターを導入しています。
以下の記事で紹介しています。

まとめ
オーディオのアース探求に、唯一絶対の正解はありません。重要なのは、
- 正しい手順で、ご自身のシステムの現状を客観的に測定・把握すること。
- アースをつないだ場合と、つながない場合の両方を、ご自身の耳で真剣に聴き比べること。
アースに特化した本はあまりないと思います。
オーディオではなく、もっと大きなレベルでのアースのはなしです。難しい内容ですが、オーディオにも生かせる内容も含まれています。アースをもっと深く勉強したい人向けの本を紹介します。
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