オーディオ用途で定番とされる「優秀録音」は数多くありますが、音楽作品としても聴き応えがあり、日常的に繰り返し再生したくなるものは意外と少ないものです。本作「Songbird」は、録音品質と音楽的な充実度を高い次元で両立させた、希少な一枚です。
Eva Cassidy - Songbird
S&P - S&P 501

エヴァ・キャシディ(Eva Cassidy, 1963–1996)は、ジャズ、フォーク、ブルース、ゴスペル、ポップスを自在に横断するアメリカのシンガー/ギタリストです。ワシントンD.C.のライブシーンで高い評価を得ながらもメジャー契約には至らず、1996年にメラノーマ(悪性黒色腫)により33歳で亡くなりました。
本作は、Blix Street Recordsの創設者ビル・ストローが彼女の録音に感銘を受け、遺族とのライセンス契約のもと、既発の「Live at Blues Alley」「Eva by Heart」「The Other Side」から選曲・編纂した死後リリースの編集盤です。1998年のCD発売後、2000年にBBCラジオで「Over the Rainbow」が紹介されたことをきっかけに英国で爆発的にヒットし、全英アルバムチャート1位を3作品で獲得。世界累計セールスは500万枚を超えています。
収録曲は以下の通り
| Track | Title | オリジナル・アーティスト/作者 | 収録元アルバム / 録音タイプ |
|---|---|---|---|
| 1 | Fields of Gold | Sting | Live at Blues Alley / ライブ録音 |
| 2 | Wade in the Water | Traditional (Spiritual) / Arr. Eva Cassidy | Eva by Heart / スタジオ録音 |
| 3 | Autumn Leaves | Joseph Kosma / Johnny Mercer / Jacques Prévert | Live at Blues Alley / ライブ録音 |
| 4 | Wayfaring Stranger | Traditional (Folk) / Arr. Eva Cassidy | Eva by Heart / スタジオ録音 |
| 5 | Songbird | Christine McVie (Fleetwood Mac) | Eva by Heart / スタジオ録音 |
| 6 | Time Is a Healer | Diane Scanlon / Greg Smith | Eva by Heart / スタジオ録音 |
| 7 | I Know You By Heart | Eve Nelson / Diane Scanlon | Eva by Heart / スタジオ録音 |
| 8 | People Get Ready | Curtis Mayfield (The Impressions) | Live at Blues Alley / ライブ録音 |
| 9 | Oh, Had I a Golden Thread | Pete Seeger | Live at Blues Alley (アルバム末尾のスタジオ録音トラック) |
| 10 | Over the Rainbow | Harold Arlen / E.Y. "Yip" Harburg | The Other Side / スタジオ録音 (1992年頃) |
アルバムの構成上の特徴は、「Live at Blues Alley」からのライブ録音と、「Eva by Heart」を中心としたスタジオ録音を戦略的に配置している点です。ライブ音源はMCや拍手がカットされ、スタジオ録音のような質感に仕上げられています。一方、スタジオ録音では生のヴァイオリンやチェロを用いた丁寧なアレンジが施されており、両者のブレンドがアルバム全体に自然な流れと変化を与えています。
キャシディの歌唱は、力強さと繊細さを兼ね備えたものです。スティングの「Fields of Gold」では、作者本人が涙したという逸話が伝わるほどの深い解釈を聴かせます。「Over the Rainbow」や「Songbird」では、伴奏の多くを自ら担当しており、シンガーとしてだけでなくマルチ・インストゥルメンタリストとしての才能も確認できます。また、優れた画家でもあり、本作のバックカバーには彼女自身の絵が使用されています。
ポピュラー系の女性ヴォーカル作品としては、チェコスロヴァキアのシリマと比較されることが少ないものの、早逝のシンガーによるシンプルで心に響く歌声という共通点があります。どちらかの作品を好む方であれば、もう一方も聴いてみる価値があるでしょう。

フォーマットとしては、通常CDのほかにXRCD盤、LP盤が存在します。CDでも力感や鮮度は十分に伝わりますが、LP盤では暗騒音の再現性が明らかに向上します。S&P 501のLP盤はSteve HoffmanとKevin GrayがAcousTechでマスタリングを行い、RTIで180g重量盤としてプレスされたオーディオファイル仕様です。厚みと静けさを高い次元で両立しており、レコードの利点を存分に発揮できる作品といえます。