竹本式プレーヤー PL-31E/TS

レコード再生は、突き詰めれば不完全な仕組みです。レコード盤に、反りなどのゆがみやカッティングの精度など不安定な要素があります。

再生機器も、トラッキングエラー、インサイドフォース、軸受の摩擦、モーターの振動 ー どれも完全には排除できません。すべてのプレーヤーは、何かを優先して何かを犠牲にする設計上のトレードオフを抱えています。

PL-31E/TSは、パイオニアのPL-31Eをベースに竹本氏が改造したプレーヤーです。TSは竹本スペシャルの意味。アンダーハングアームによるインサイドフォースの排除を優先とした設計で、軸受やモーターにも独自の工夫があります。

実際に使っていて、この価格帯では他に比較対象が思い当たらないプレーヤーだと感じています。ただし、アンダーハングという方式にはメリットだけでなく明確なトレードオフもあります。

プレーヤーが完成するまでの過程や、氏の設計思想については、ブログに詳しくまとめられています。

竹本式プレーヤー PL-31E/TS
ダストカバーは使わない流派 / アームパイプはチタン仕様
目次

アンダーハングアームの設計思想

PL-31E/TSの最大の特徴は、Fidelixの0 SideForceに準じたアンダーハングアームの採用です。

一般的なオフセットアームでは、レコードの溝が針を引っ張る力がアームの支点方向と横方向に分解され、横方向の成分がインサイドフォースとして発生します。このインサイドフォースは再生位置によって変動し、音の時間軸に揺らぎを与えます。

インサイドフォースの発生原理
一般的なオフセットアームの場合

アンダーハングの場合、針先がアームの支点より内側にあるため、溝が針を引く力がそのまま支点方向に向かいます。インサイドフォースが原理的に発生しないので、横方向の揺らぎがなく、音が明確で安定します。

インサイドフォースの仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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インサイドフォースキャンセラー不要論の真相|原理から導く正しい調整方法 「かけない方が音が良い」は本当に正しいのか。インサイドフォースが発生する原理、やりがちな間違い、テストレコードを使った正確な調整手順まで順を追って解説します。

トラッキングエラーとのトレードオフ

アンダーハングでは、トラッキングエラーが0になるポイントは盤面上の1点だけです。それ以外の位置では、オフセットアームよりも大きなトラッキングエラーが発生します。

トラッキングエラーが大きいこと自体は、左右の音圧差には直結しません。しかし、クロストークには影響が出ます。実際に測定してみると、外周側と内周側でクロストークの方向が逆転する現象が確認できました。

一部の音源では、音場の形成に違和感を覚えることがあります。スピーカーに対して均等に丸く広がるはずの音場が、楕円状に感じるようなイメージです。

針の形状による影響

このアームの設計思想の原点であるFidelixは、自社カートリッジに楕円針を採用しています。これはおそらく意図的な選択です。

ラインコンタクト針は溝との接触が線状で、トラッキングエラーによる溝壁面との角度ずれが音に反映されやすい傾向があります。アンダーハングは原理的にトラッキングエラーが大きい方式なので、ラインコンタクトとの組み合わせでは位相差が無視できない程度に出てくるのだと思います。丸針や楕円針は接触面積が大きい分、こうした影響を受けにくいはずです。

私も以前、Fidelixの0 SideForceを使っていたことがあります。PL-31E/TSではラインコンタクト針を使用していますが、丸針や楕円針であれば、クロストークや音場の違和感は軽減される可能性があります。

インサイドフォースの排除による安定感・鮮度感と、トラッキングエラーに起因する位相差 ー これがアンダーハングアームのトレードオフです。

ダブルベアリング軸受とプラッター

もう1つの大きな特徴が、スピンドルシャフトの上下にベアリングを配置したダブルベアリング構造です。市販のプレーヤーでこの方式を採用している製品は見たことがありません。

ベアリングはNSKマイクロプレシジョンのSMR117ZZ。高価なものではないので、半年に1回くらいのペースで交換しています。上部のベアリングはエポキシで固定されているため、交換時はバーナーであぶって外す必要があります。

PL-31E/TS 軸受の底面構造
シャフトは細めで、底面にあるボールで受けます
PL-31E/TS ダブルベアリング構造
スピンドルシャフトの上下にベアリングを配置

磁気浮上とプラッターの調整

プラッターは磁石により荷重の一部を浮かせる構造です。IMEDIAやSpiral Grooveの製品でも採用されていた方式ですが、全荷重を浮かせてしまうと音に芯がなくなるため、バランスの調整が必要です。

オリジナルのプラッターに対して1kg程度のガラスプラッターを追加してバランスを取る構造になっています。私はさらにその間にオヤイデの1mmシートを挟んで共振を抑えるようにしています。シートは半分見た目で選びました。

ターンテーブルシートはFidelix HIGH TRANSMISSION。帯電防止クリーナー MX-50を半分に希釈して塗っています。スタビライザーはFidelix製も含めていくつか試しましたが、メリットを感じなかったので使っていません。

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軸とオイルの選定

プラッターの軸は細い方が音が良いという考え方で、Roksanの設計思想にも通じるところがあります。軸受の下ではステンレスボールで荷重を受ける構造で、いずれセラミックかタングステンも試してみたいと思っています。

ベアリングには寿命があるため、一般的なプレーヤーではメンテナンス性の観点から採用しにくいのだと思います。PL-31E/TSは市販のベアリングを使用しているので、定期交換が可能です。すでに2回交換していて、予備を10個ほどストックしています。

オイルは公式推奨のスクワランですが、粘度は低いほど音が良い傾向があります。ミシンオイルを試したとき、スクワランよりも明らかに開放的な音になりました。ただしミシンオイルは経年変化があるので、粘度が低く安定性の高い素材を探しました。

いくつか試した結果、今は釣具のベアリング用オイルを使っています。公式推奨はスクワランなので、自己責任で。
参考 ー MBO(ミニチュアベアリング専用オイル)

ベアリングにかかる負荷がとても小さいので、わずかな力でプラッターが気持ちよく回ります。ベルトをかけない状態だと10分くらいは回り続けます。Roksanの初期モデルやLINN LP12も工作精度の高さゆえに滑らかに回りますが、PL-31E/TSの回転の滑らかさは構造の合理性によるものです。

モーターと電源

PL-31E/TS 底面の速度調整
速度調整は底面からしかできないので、少しコツが要ります

低トルクの小型DCモーターを乾電池で駆動するシンプルな構成です。

クォーツロックなら速度調整は不要で便利ですが、常にスピードを補正しようとして細かく加減速するため、音質面ではデメリットがあります。DCモーター+電池駆動は、一般的なオーディオ用電源と比べても音質的なメリットが大きいと感じます。

一番面倒なのは、速度調整が底面からしかできないことです。ただ、オイル交換やベルト交換のタイミングで再調整する程度で、大きくずれることは今のところありません。

電池は9Vで駆動。私の環境では1年以上持ちましたが、一度電池が液漏れして大惨事になったので、少し早めに交換するようにしています。

以前、電池駆動のフォノイコライザーを使っていたとき、アルカリよりもマンガン電池の方が良い結果だったので、このプレーヤーにもマンガン電池を使用しています。

モーターの回転音は少し気になります。ある程度の音量で聴いていればもちろんわかりませんが、深夜に静かな音量で聴いているときは耳につくことがあります。ただ、歴代使ってきたどのプレーヤーでも同様の経験があるので、このプレーヤーが特別うるさいということではありません。私のオーディオの方向性が静けさに振っている分、気になりやすいのだと思います。

足回りとカーボンパーツ

PL-31E/TS M10脚
脚はM10

M10径の真鍮製の脚が付属しています。個人的に脚はナットで固定したいので、ナットのみ追加しました。通常のM10ナットだとネジと干渉するため、一回り小さい特殊ナットを探して使っています。

有志の方がこのプレーヤー用にカーボンパーツを制作されていたので、それも追加しています。落ち着いた方向にシフトする変化で、激変ではありませんが好ましい結果でした。

カーボンパーツの換装は難しくありませんが、アナログの調整に自信がなければそのままでも問題ありません。

音質と使い勝手

開放感がありながら、音の芯とエネルギーを感じる音です。そしてとても静か。今までいろいろなプレーヤーを使ってきましたが、オイルの量や種類でこれほど音が変わるプレーヤーは初めてでした。

調整は、一般的なアナログ再生の心得があれば困ることはないと思います。ただし、プレーヤーを調整せずにそのまま1年使い続けるような人には向いていません。ターンテーブルの軸周りは半年に1回くらい見直したほうが良いです。

少なくとも、この数倍の価格帯の範囲では比較対象になるプレーヤーが思い当たりません。

プレーヤーの設置やアームの調整については、こちらも参考にしてください。

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