想像の中にあるスペインの風景を、そのまま音にしたような色彩感と情熱。ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスが指揮するアルベニスの「スペイン組曲」は、まさにそのような魅力に満ちたレコードです。
1960年代後半、英デッカが誇る録音技術の粋を集めたこの一枚は、クラシック音楽ファンはもちろん、オーディオ的な聴き応えを求める人々をも虜にしてきました。
Rafael Fruhbeck de Burgos - Albeniz: Suite espanola
Decca - SXL6355

この歴史的な録音は、1967年2月にロンドンのキングスウェイ・ホール (Kingsway Hall) でセッションが行われました。プロデューサーにレイ・ミンシャル (Ray Minshull)、そしてエンジニアには伝説的なケネス・ウィルキンソン (Kenneth Wilkinson) という、デッカ黄金期を支えた布陣です。演奏は、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団が担当しています。
本作の最大の聴きどころは、ブルゴス自身の編曲による、その鮮烈でダイナミックな音楽性にあります。原曲のピアノ曲が持つ繊細な美しさを損なうことなく、オーケストラの持つ色彩とパワーを最大限に引き出しているのです。一般的なクラシック作品とは少し趣が異なりますが、各曲が描き出すスペイン各地の風景や情感は、聴く者を飽きさせません。特に「カタルーニャ」で見せる情熱的な盛り上がりや、「セビーリャ」の華やかな祝祭の雰囲気は圧巻です。
そして、この演奏の魅力を余すところなく捉えているのが、ウィルキンソンによる卓越した録音技術に他なりません。キングスウェイ・ホール特有の豊かで深みのあるアンビエンスを完璧に収録し、広大で奥行きのあるサウンドステージを現出させます。1967年の録音から半世紀以上が経過した現在でも、色褪せることはありません。
米国のオーディオ専門誌「The Absolute Sound」のスーパーディスクリスト(TASリスト)にも選出されています。
近年では、Stereo Sound社やAnalogue Productions社からSACDが、またLIM社からXRCDがリリースされるなど、数々の高音質盤が登場しています。それぞれ定評のある素晴らしい再発ですが、オリジナルの英国盤LPが持つ空気感や情報の密度には、やはり特別なものがあります。
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