1970年代、数多くのバンドが生まれては消えていきました。その多くは大きな成功を収めることなく、人々の記憶から忘れ去られてしまいます。
しかし、中にはごく一部の愛好家によってその価値が見出され、長い時を経て「幻の名盤」として輝きを放つレコードが存在します。
Full Sail - Maiden Voyage
Not On Label – SW 2809

1976年、シアトルを拠点とする4人組バンドFull Sailが、自主制作で唯一のアルバム「Maiden Voyage」をリリースしました。
メンバーはBruce McKagan、David A. Tribble、James A. Carroll、Timmy DeHanの4人。作曲はMcKaganとTribbleが中心で、DeHanも1曲を手がけています。録音はSeattle West Recordingで行われ、エンジニアはStevie AdamekとSteve (Apple) Boyceが務めました。なお、Bruce McKaganは後にGuns N' Rosesで活躍するDuff McKaganの兄であり、Duffにベースの手ほどきをした人物としても知られています。
アルバムは、アコースティックギターの爽やかなカッティングで始まる「Sailin' Along」で幕を開けます。心地よい風を感じさせる軽快なリズムと、透明感のある男性ボーカルのハーモニーが印象的です。自主制作盤とは思えないほど安定した演奏と、練りこまれた楽曲構成からは、バンドの確かな実力がうかがえます。
他の楽曲では、よりフォーキーで叙情的な側面を見せ、優しく爪弾かれるギターの音色とメロディが聴く者の心に染み渡ります。一方でブルージーなフィーリングを感じさせる楽曲も収録されており、アルバム全体を通して音楽的な引き出しの多さに驚かされます。派手なアレンジや実験的な試みはありませんが、どの楽曲もメロディが秀逸で、丁寧に作られていることが伝わってきます。アコースティックな響きを基調としながらも、的確なエレクトリックギターやベース、ドラムがサウンドに深みを与えており、飽きさせない構成です。
サウンドの印象としては、ニール・ヤングやミレニウムを連想させるところがあります。それらの作品と比べるとややスケール感では譲るものの、トータルとしてよくまとまった佳作です。2012年には韓国から24bitリマスターによるミニLP仕様のCDも発売されており、オリジナルのレコードも比較的入手しやすい状況です。