[RCA RL 37406] ネル・ゴトコフスキー (Nell Gotkovsky) - バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全集

バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータは、ヴァイオリニストにとっての聖典であり、数多の名盤が存在します。しかし、その輝かしいディスコグラフィーの影で、真の実力者による録音が知られることなく埋もれていることも少なくありません。

1980年にフランスでひっそりと世に出た、ネル・ゴトコフスキーによるこの3枚組レコードは、まさにそうした「発見されるべき至宝」と呼ぶにふさわしい一枚です。

目次

Nell Gotkovsky - Bach: Sonatas and Partitas

RCA - RL37406

RL37406


このレコードは、フランスのヴァイオリニスト、ネル・ゴトコフスキー (Nell Gotkovsky) が1980年にフランスRCAに残した、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」 BWV 1001-1006 の全曲集です。アナログ録音円熟期の充実したサウンドで、彼女の至芸が見事に刻まれています。

ゴトコフスキーの名に馴染みのない方も多いかもしれませんが、彼女は音楽一家に生まれ、若くして20世紀の巨匠ユーディ・メニューイン (Yehudi Menuhin) に才能を認められ、バルトークの二重奏曲で共演を果たしたほどの実力者でした。その客観的な評価は、彼女が残したハイドンの協奏曲の録音レビューからも伺い知れます。英国の権威ある雑誌「グラモフォン」は当時、その演奏を「堅固で豊かな音色」「正確無比なイントネーション」と称賛し、「その精密さにおいて(名手)アルテュール・グリュミオーにさえ匹敵する」と最大級の賛辞を贈っています。

その卓越した技巧と豊かな音楽性は、このバッハの無伴奏全集で遺憾なく発揮されています。一聴して感じるのは、その演奏のスケールの大きさです。まるでオーケストラを思わせるような力強い音圧と、雄大で揺るぎない音楽の運びは、聴く者を圧倒します。バッハが楽譜に込めた多声的な響きが、驚くほど明晰に、そして豊かに再現されていく様は圧巻の一言。特に難曲シャコンヌでは、厳格な構築性と情熱的な表現力が見事に融合し、深い感動を呼び起こします。

この録音がリリースされた1980年前後は、ナタン・ミルシテインやヘンリク・シェリングといった巨匠たちの決定盤が君臨し、ギドン・クレーメルやシュロモ・ミンツら新世代が台頭していた時代です。そうした綺羅星の如き名盤の中にありながら、このゴトコフスキー盤は全く引けを取らないどころか、独自の力強い輝きを放っています。

個人的にも、ワンダ・ウィウコミルスカイザベル・ファウストといった奏者の名演以上に心惹かれる、最も好きな全集の一つです。生命力に満ち溢れた、スケールの大きなバッハを求めるすべての方に、自信を持って推薦します。

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