J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」は、ヴァイオリンという楽器の可能性を極限まで追求した作品として知られています。この難曲に、ドイツ出身のヴァイオリニスト、イザベル・ファウストが挑んだHarmonia Mundi原盤の録音は、歴史的奏法への深い理解と現代的な技巧を高度に融合させた演奏として、21世紀の新たな指標と評されています。
本盤は、その名演をKing Internationalが日本国内限定・初回完全限定生産で3枚組LPとしてリリースしたものです。
Isabelle Faust - J.S. Bach: Sonatas and Partitas for Solo Violin
King International - HMLP-0018/20

パッケージは豪華なボックス仕様で、ディスクの取り出しにやや手間がかかる点は好みが分かれるかもしれません。
CDと比較すると、音質の違いは明らかです。CDでは時に鋭く感じられる高音域の角が取れ、LPではより自然で温かみのある響きに仕上がっています。鮮烈さで圧倒するタイプではありませんが、細部まで丁寧に描写された音質は、現代の録音として非常に高い水準にあります。CDでは気づきにくかった弱音のニュアンスや表現の深みがLPでは鮮明に立ち現れ、ファウストの驚異的な技術力と音楽性をあらためて認識させられます。
ファウストが本録音で使用しているのは、1704年製のストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」です。
19世紀末にドイツの城の屋根裏で約150年ぶりに発見されたという逸話を持つこの名器は、ほとんど演奏されなかった期間が長く、オリジナルのネックを保持する数少ないストラディヴァリウスの一つです。1996年からファウストに貸与され、その温かく繊細な音色は彼女の演奏と深く結びついています。
録音は、プロデューサーのマルティン・ザウアー(Martin Sauer)のもと、ベルリンのテルデックス・スタジオ(Teldex Studio Berlin)で2009年と2011年の2回に分けて行われました。同スタジオはTelefunken / Teldec時代からの伝統を受け継ぐ欧州最大級のプライベート・スタジオで、ヴィンテージのNeumann M50やM49をはじめとする膨大なマイクコレクションを有しています。このLPは24bit/96kHzのハイレゾ・デジタルマスターを音源としており、ステレオ初期の名録音のような生々しい空気感とはまた異なる、現代的な録音技術の到達点を感じさせます。
すでにCDでこの演奏に親しんでいるリスナーであれば、その価値をさらに深く発見できる、決定盤と呼ぶにふさわしいクオリティーです。