数多あるベートーヴェンのチェロ・ソナタ録音の中でも、これは特別な輝きを放つ一枚です。
20歳という若さのジャクリーヌ・デュ・プレが放つ燃え盛るような情熱と、スティーヴン・ビショップの理知的なピアニズムが交差する奇跡の瞬間。1965年のアビー・ロード・スタジオに封じ込められた、生々しくも美しい音楽の対話がここにあります。
デュプレのレコードは協奏曲が多く、室内楽は少ないですね。スティーヴン・ビショップは、アルゲリッチの3番目の夫です。
Jacqueline Du Pre & Stephen Bishop - Beethoven: Cello Sonatas
HMV - HQS 1029

録音は、1965年12月19日から23日にかけて、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで行われました。
プロデューサーはロナルド・キンロック・アンダーソン (Ronald Kinloch Anderson)、バランス・エンジニアはネヴィル・ボイリング (Neville Boyling) という、EMI黄金期を支えた布陣です。彼らの仕事ぶりは、このレコードがミドルプライス・シリーズであるHQSから発売された とは信じがたいほど卓越しています。
デュ・プレの直感的な「炎」と、名手マイラ・ヘス (Myra Hess) に師事したビショップの構築的な「知性」の対話にあります。ベートーヴェン中期の頂点であり、おおらかで英雄的な性格を持つソナタ3番。そして、後期の様式を予感させる、内省的で「無骨なスタイル」のソナタ5番。
この対照的な2曲を並べたプログラムは、若きデュオの表現力の幅を証明する、意欲的な表明でもありました。
HQSシリーズもASDのように複雑で、初版のラベルが何色か分かりづらいです。
このレコードは、黒ラベルが初出です。2版が小豆色(黒ニッパー)、3版が小豆色(小豆ニッパー)と続きます。
このシリーズは積極的にコレクションしてませんが、そのうち気が向いたらラベルの紹介もしたいと思います。
デュプレとビショップは録音当時、婚約していたそうですが、直後に破談になったそうです。当初はチェロソナタ全集を録音する予定が、この1枚で終わってしまいました。
そのため、プレス枚数が少ない作品です。
協奏曲の彼女のイメージよりも落ち着いた聴かせる演奏ですが、一本芯があるというか、静かな情熱を感じます。
その後、バレンボイムとのチェロソナタを録音。2人は結婚したのは周知のとおりです。
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