1965年12月、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたベートーヴェンのチェロ・ソナタ集です。
当時20歳のジャクリーヌ・デュ・プレと、マイラ・ヘスの高弟スティーヴン・ビショップ(現スティーヴン・コヴァセヴィチ)によるデュオ録音で、デュ・プレの数少ない室内楽作品のひとつです。
Jacqueline du Pre & Stephen Bishop - Beethoven: Cello Sonatas No. 3 & No. 5
HMV - HQS 1029

録音は1965年12月19日から23日にかけて行われました。
プロデューサーはロナルド・キンロック・アンダーソン。ピアニスト兼チェンバロ奏者としても活動し、1963年からEMIのプロデューサーとしてバルビローリやボールト、メニューインらの録音を手がけた人物です。バランス・エンジニアはネヴィル・ボイリング。EMIアビー・ロード・スタジオのクラシック部門を代表するエンジニアのひとりで、ムーティやミケランジェリの録音でも知られます。ミドルプライス・シリーズであるHQSからの発売とは思えない、充実した録音です。
ビショップは1940年ロサンゼルス生まれ。11歳でデビューし、18歳で渡英してマイラ・ヘスに師事しました。ヘスはビショップのベートーヴェンへの適性を見出し、その解釈を育てたといわれます。1961年にウィグモア・ホールでヨーロッパ・デビューを果たし、1964年にデュ・プレとデュオを結成。批評家からはとりわけベートーヴェンのチェロ・ソナタの解釈が高く評価されました。なお、のちにマルタ・アルゲリッチのパートナーとなっています。
収録曲は、ベートーヴェン中期の頂点にあたる、おおらかで英雄的な性格を持つソナタ第3番イ長調 Op.69と、後期の様式を予感させる内省的なソナタ第5番ニ長調 Op.102-2。デュ・プレの直感的な情熱と、ビショップの構築的な知性が交差する対話が聴きどころです。
協奏曲での印象よりも落ち着いた演奏ですが、静かな芯の強さを感じさせます。
デュ・プレとビショップは録音当時、婚約していたとされますが、直後に破談となりました。当初はチェロ・ソナタ全集の録音が予定されていたものの、この1枚で終了しています。そのためプレス枚数が少なく、コレクターズ・アイテムとなっています。
デュ・プレはその後、ダニエル・バレンボイムとチェロ・ソナタを録音し、二人が結婚したことは広く知られています。
HQSシリーズはASD同様にラベルの変遷が複雑です。本盤は黒ラベルが初出で、2版が小豆色(黒ニッパー)、3版が小豆色(小豆ニッパー)と続きます。
Roon
SACD
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