1995年にリリースされたセリア・ネルゴールの「Brevet」は、彼女のキャリアにおいて特別な輝きを放つ一枚です。国際的な成功を経て、あえて母国語であるノルウェー語で歌うことを選択した本作は、彼女の音楽的ルーツと誠実さが深く刻まれた傑作です。個人的には彼女の作品で一番好きです。
Silje Nergaard – Brevet
Kirkelig Kulturverksted - FXLP 149

本作「Brevet」が特別なのは、セリアがそれまでのキャリアで築いてきた英語詞でのジャズシンガーというイメージから一歩踏み出し、自身の内面と深く向き合った作品だからです。なぜ彼女は、リスナー層が限定されるリスクを冒してまで母国語で歌う道を選んだのでしょうか。
その背景には、名門レーベル「Kirkelig Kulturverksted (KKV)」の創設者であり、本作のプロデューサーでもあるエリック・ヒレスタッド (Erik Hillestad) の存在がありました。彼はセリアのソングライティング能力と声の表現力に、ノルウェー語ならではの響きと情緒が加わることで、新たな化学反応が生まれると確信していたのです。結果として、本作の歌詞はよりパーソナルで詩的な世界観を獲得し、メロディーと一体となって聴き手の心に深く染み渡るものとなりました。これは、彼女が自身のアイデンティティを再確認し、アーティストとして新たな扉を開いた瞬間でもありました。
音楽的には、ジャズの枠にとらわれないフォークやポップスの要素が溶け合った、非常に質の高いサウンドが展開されます。特に低音の処理はユニークで、アコースティック楽器の温かみを活かしながら、アルバム全体に統一感のある落ち着いた雰囲気をもたらしています。派手さはありませんが、一つひとつの音が丁寧に配置され、セリアの繊細なボーカルを優しく包み込むようなアレンジは見事です。
本作はもともとデジタル録音が主流となった1995年の作品であり、CDフォーマットで最高の音質を発揮するよう、非常に丁寧にミキシングされています。
レコードに大きなアドバンテージは感じませんが、最新のプレス技術によって製造された本作は、ノイズが少なく非常にクリアでありながら、デジタル音源特有の硬さが和らぎ、音の輪郭がより自然に感じられます。
「Brevet」は、彼女のキャリアの転換点となった重要作であると同時に、音楽的にも音質的にも非常に完成度の高いアルバムです。本作の持つパーソナルな温かみや、ノルウェー語の美しい響きに浸りたい方、そして良質なボーカル作品をじっくりと良い音で楽しみたいオーディオファンの方に、心から推薦します。
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