1994年にリリースされたデビュー作が、四半世紀以上の時を経てアナログレコードとして再発されました。
90年代フレンチ・ポップシーンに足跡を残したオトゥール・ド・ルシー (Autour De Lucie) の1stアルバム「L'Echappee Belle」。ネオアコ・ファンにも広くおすすめしたい一枚です。
Autour De Lucie - L'Echappee Belle
Dot Matrix Recordings - DM-5608

私とこのアルバムの出会いは、90年代の終わりに刊行されたムック本「ギター・ポップ・ジャンボリー」です。そこに掲載された100選はすべて入手しましたが、なかでも本作は、1曲目のイントロから心を奪われた特別な一枚でした。
1993年、ヴァレリー・ルリオ (Valérie Leulliot) を中心にパリで結成されたバンドです。
フレンチ・ポップの典型的なイメージとは一味違う手触りを持つサウンドです。ヴァレリーの繊細なフランス語のウィスパー・ヴォイスと、アコースティック・ギターが織りなす響き。そこに漂うのは、80年代のザ・スミス (The Smiths) にも通じるような、メランコリックで知的な空気感です。
彼らは華美な装飾を排し、ギターとピアノを主体とした伝統的な曲作りに立ち返りながら、モダンで洗練されたサウンドを構築しました。その音楽性はフランス国内外で高く評価されています。
アルバム冒頭を飾る「L'accord parfait」の、あの忘れがたいギターのイントロを聴けば、彼らが目指した音楽の方向性が明確に伝わってきます。本作はバンドの原点であると同時に、その後のキャリアの礎を築いた一枚です。
2ndアルバム以降はエレクトロニックな要素が強まっていき、私自身の興味は少し離れてしまいましたが、このデビュー作の輝きが色褪せることはありません。
今回のアナログ盤は2022年9月にDot Matrix Recordingsからリリースされた初のLP化で、米国でプレスされています。カッティングはCohearent Audioのケヴィン・グレイ (Kevin Gray) が手がけました。元のCDもそうですが、音質で語る作品ではないので、レコードの音についての言及は控えます。
本作はフレンチ・ポップの入門編としてだけでなく、英国のインディー・ポップやネオアコを愛するリスナーの心にも響くであろう、普遍性を持つ一枚です。
甘美でありながら、どこか物憂げな陰影を帯びたサウンドは、忙しい日常から少しだけ「美しい逃避」をさせてくれるような世界観を体感させてくれます。