現役の内科医でありながら、温かく芯のある歌声で幅広い層を魅了するシンガー、アン・サリー。
2003年にリリースされたセカンドアルバム「Moon Dance」は、デビュー作「Voyage」と並ぶ初期の代表作として長く支持されてきました。2021年11月、「レコードの日」対象商品として待望のLP化が実現しています。
Ann Sally - Moon Dance
Columbia - COJA-9434

プロデュースはゴンザレス鈴木とアン・サリーの共同名義。小沼ようすけ、笹子重治(ショーロクラブ)、フェビアン・レザ・パネらが参加し、アコースティックで親密な演奏空間を作り上げています。
選曲はスティーヴィー・ワンダーの「Happier Than The Morning Sun」、ニール・ヤングの「Only Love can Break Your Heart」、カエターノ・ヴェローゾ、ケニー・ランキン、さらに「蘇州夜曲」「星影の小径」といった日本の名曲まで、ジャンルの垣根を軽やかに越えていきます。その幅広さにもかかわらず、アン・サリーの知的で柔らかなボーカルがすべてを一つのトーンにまとめ上げており、全11曲が一貫した世界観のなかに収まっています。
ただし、アナログ盤の音質については率直に言って評価が分かれるところです。
2003年にリリースされたオリジナルCD(VACM-1223)は、ボーカルの中低域の質感を的確に捉え、各楽器の音色も生々しく、空間の広がりを感じさせる優れた仕上がりでした。LP化にあたっては、その質感にアナログならではの温かみが加わることが期待されましたが、実際にはCDで感じられた伸びやかさや音のきらめきがやや後退し、全体に窮屈な印象を受けます。
もちろんLP単体で聴けば十分に楽しめる作品です。しかし一度でもCDの音質を知っていると、どうしても物足りなさが残ります。
音楽的な価値は揺るぎないものですが、音質面を正直に評価するなら、CDを100点として60点ほどでしょうか。コレクションとしての所有価値は十分にありますが、最高の音質を求めるならまずCDをお勧めします。