[BIS LP-163/164] グレゴリオ・パニアグワ (Gregorio Paniagua) - ラ・スパーニャ (La Spagna)

オーディオファイルの愛聴盤、あるいはリファレンスディスクとして、あまりにも有名な一枚があります。グレゴリオ・パニアグワ (Gregorio Paniagua) がマドリード古楽合奏団 (Atrium Musicae de Madrid) を率いて作り上げたアルバム、「ラ・スパーニャ」です。

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Gregorio Paniagua - La Spagna

BIS - LP-163/164

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このアルバムがオーディオの世界で特別な地位を築いているのには、明確な理由があります。日本では評論家の長岡鉄男氏が「外盤A級セレクション」で紹介した影響も大きいですが、その評価は世界的なものです。特に、米国のオーディオ専門誌「The Absolute Sound」が選定するスーパーディスクリストへの掲載は、このレコードの価値を客観的に物語っています。

本作は、プロデューサーでありBISレーベルの創設者でもあるロベルト・フォン・バール (Robert von Bahr) のもと、1980年6月にスペイン、マドリードの教会「Colegio del Buen Consejo」で録音されました。この録音場所がもたらす広大で自然なアンビエンスが、まず聴く者を圧倒します。楽器の音が鳴り響き、その響きが教会の高い天井に吸い込まれていくまでの過程が、驚くほどリアルに捉えられています。

本作の真価は音の良さだけに留まりません。その音楽的内容は、ユニークで挑戦的です。15世紀から伝わる「ラ・スパーニャ」という一つの旋律をテーマに、中世、ルネサンス、バロックといった各時代の様式で変奏を繰り広げていきます。使用されるのはリュートやヴィオラ・ダ・ガンバといった古楽器だけではありません。曲が進むにつれて、突如として現代的なパーカッションや、自動車のクラクションまでが音楽に組み込まれています。

この静と動のコントラスト、つまり古楽器の繊細な響きから、空間を揺るがすほどの打楽器の轟音までを収めた驚異的なダイナミックレンジこそ、オーディオ的な聴きどころです。楽器の質感が手に取るように分かり、目の前に広がる広大な音場の中で、それぞれの音が明確に定位する感覚は、他のレコードではなかなか味わえません。パニアグワの狙いは、単なる古楽の再現ではなく、一つの旋律を軸に時間旅行を体験させる、壮大な音響絵巻を描くことにあったのかもしれません。

「ラ・スパーニャ」は、単なる高音質なレコードという枠を超えた、音楽的冒険心に満ちた芸術作品です。録音から40年以上が経過した現在でも、その魅力は全く色褪せることがありません。ご自身のオーディオシステムの可能性を探求したい方はもちろん、未知の音楽体験を求めるすべてのファンに推薦したい、時代を超えた名盤です。

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