ピアニスト、サンソン・フランソワの録音の中でも、ラヴェルのピアノ作品集は彼の芸術性を最も色濃く映し出す特別な存在です。
その詩的で色彩豊かな音楽性は、時代を超えて多くの聴き手を魅了し続けています。今回は、1967年にフランスで初めてリリースされたオリジナル盤と、後に協奏曲を加えて発売されたボックスセットを比較しながら、その魅力に迫ります。
Samson Francois - Ravel: Piano Works
VSM - CVC 2054/6

サンソン・フランソワ(Samson Francois)がEMIに残したモーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)のピアノ独奏曲全集です。協奏曲を除く全作品が3枚のレコードに収められています。
これはフランス盤の初出盤で、英国盤も存在します。
録音は1967年に、フランス・パリの名高い「サル・ワグラム(Salle Wagram)」で行われました。プロデューサーにルネ・シャラン(René Challan)、エンジニアにポール・ヴァヴァスール(Paul Vavasseur)という、当時のフランスEMIを代表する布陣によるものです。このコンビは、フランソワの持つ繊細なタッチから力強い打鍵まで、その独特の響きを見事に捉えきっています。
フランソワのラヴェルは、他のどのピアニストとも一線を画す、極めて個性的で自由な解釈が特徴です。例えば「水の戯れ」では、楽譜の指示を超えた大胆なテンポの揺れや、即興的な装飾を交えながら、光を受けてきらめく水の飛沫を見事に描き出します。また、「亡き王女のためのパヴァーヌ」では、深い情感を湛えつつも決して感傷に流れない、気品に満ちた演奏を聴かせます。
その奔放さゆえに評価が分かれることもありますが、ラヴェルの作品には彼のスタイルと相性が良いと思います。
音質面では、このオリジナル盤 [VSM CVC 2054/6] は、後年の再販盤に比べて音の鮮度と生々しさで明らかに勝っています。ただし、当時のフランス盤特有の材質の問題か、背景に若干のノイズを感じる盤が多いのも事実です。
VSM - 2C 165-52281/4

この4枚組には、特典として7インチレコードが付属します。
このセットに対応する英国盤が存在するかは不明です。
1970年代にリリースされた4枚組のボックスセット [2C 165-52281/4] は、アンドレ・クリュイタンス(André Cluytens)指揮による2つのピアノ協奏曲が加えられています。こちらのプレスはより安定しており、ノイズも少なく安心して音楽に浸ることができます。
音質はオリジナル盤に一歩譲るものの、オリジナル盤が高価な協奏曲も含まれている点を考慮すると、コストパフォーマンスは非常に高い選択肢です。
どちらの盤を選ぶにせよ、フランソワという天才ピアニストの魔法に魅了されることは間違いありません。
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