1966年、モスクワ。当時まだ16歳だった一人のピアニストが、チャイコフスキー国際コンクールで圧倒的な演奏を披露し、審査員全員一致の金メダルを獲得しました。
そのピアニストこそ、後に「生ける伝説」と称されるグリゴリー・ソコロフです。今回ご紹介するのは、その歴史的な瞬間の熱気を生々しく捉えた、ライブ録音盤です。
Grigory Sokolov - Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1
Melodiya - С-01331-2

本作は、1966年にモスクワ音楽院大ホールで行われた、第3回チャイコフスキー国際コンクールの本選におけるライブ録音です。若きグリゴリー・ソコロフのピアノに、ネーメ・ヤルヴィ (Neheme Järvi) 指揮、ソヴィエト国立交響楽団(現在のロシア国立交響楽団)の布陣。
旧ソ連の国営レーベルであったメロディア (Melodiya) によって記録されたこの音源は、プロデューサーやエンジニアのクレジットこそ不明なものの、当時のソ連が国の威信をかけてコンクールの模様を記録した、貴重なドキュメントと言えます。
この録音の最大の魅力は、後年の完璧主義者として知られるソコロフとは趣を異にする、若さゆえの燃え盛るような情熱と大胆不敵な表現力にあります。
第1楽章冒頭の有名な和音からして、恐れを知らない強靭な打鍵です。そのテクニックは16歳とは思えない完成度で、圧倒的な技巧とスケールの大きな演奏です。
1958年の第1回大会で優勝したヴァン・クライバーン (Van Cliburn) の演奏が、西側的な明晰さとロマンティシズムで世界を魅了したのとは対照的に、ソコロフの演奏はロシアの大地を思わせるような強靭な打鍵、荒々しいエネルギーに満ちています。
ヤルヴィ率いるオーケストラの伴奏もまた、若きソリストに触発されたかのような熱気を帯びており、時に火花を散らすような緊張感あふれる掛け合いを聴かせます。
厳密に言えば、本作のオリジナル盤は、モノラルです。
66年当時、多くのレーベルはすでにステレオ録音に以降していましたが、メロディアはモノラル録音の疑似ステレオの時代です。
私はモノ針を持っていないので、モノとステレオが併売されているものは基本的にステレオ盤を買います。
いちおう、ステレオ盤は本作は初出になると思いますが、音質は決して褒められたものではありません。
晩年のソコロフの演奏をよく聴いていたので、さすがに若き時代は全然違いますね。
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