Jonatha BrookeとJennifer Kimballによるフォーク・ロック・デュオ、The Story。1989年から1994年というわずか5年の活動期間に2枚のアルバムを残し、不協和音を取り入れた緻密なハーモニーと文学的な歌詞世界で高い評価を得ました。
二人は1981年、アマースト大学のアカペラグループのオーディションで出会い、声のブレンドの相性の良さからソプラノセクションを共に担当します。当初は「Jonatha and Jennifer」名義でBrookeのオリジナル曲を披露していましたが、卒業後は一度それぞれの道へ。Brookeはダンスカンパニーに、Kimballは出版社のグラフィックデザイナーとして就職しますが、散発的にライブ活動を続け、1989年に本格的な音楽活動を再開しました。
Jonatha Brooke & The Story

Grace in Gravity(1991年)
デビューアルバム「Grace in Gravity」は、Green Linnet Recordsからリリースされました。ボストンを拠点とするデュオは地元の音楽賞に複数ノミネートされるなど高い評価を獲得し、その成功がElektra Recordsの目に留まります。翌1992年にはElektraから再発され、より広い聴衆に届くことになりました。
タイトル曲「Grace in Gravity」は、アパルトヘイト時代の南アフリカで起きた実話に基づいています。自動車事故に遭った黒人バレエダンサーが、白人の同乗者を優先する人種差別的な救急対応によって治療が遅れ、半身不随となった悲劇です。この重いテーマを優美なメロディに乗せて描き出す手法が強い印象を残します。他の収録曲も含め、アカデミックで文学的な志向が色濃いアルバムです。
The Angel in the House(1993年)
セカンドアルバムのタイトルは、19世紀の詩人コヴェントリー・パトモアが1854年から1862年にかけて発表した同名の詩に由来します。この詩は、自己犠牲的で従順な女性像をヴィクトリア朝の理想として称えたものですが、後にヴァージニア・ウルフが「女性作家が真の自己表現を達成するには、まずこの"家庭の天使"を殺さなければならない」と痛烈に批判したことでも知られています。
音楽面では、1stアルバムのストレートなフォークポップから大きく進化し、ジャズやワールドミュージックの要素、不協和音を積極的に取り入れています。ジョニ・ミッチェルの「Hejira」と比較されることもあり、二人のハーモニーがより複雑に絡み合う構成は聴きごたえがあります。
解散後の活動
1994年の解散後、Jonatha Brookeはソロに転向し、1995年の「Plumb」を皮切りに数多くのアルバムをリリースしています。自主レーベルBad Dog Recordsを設立したほか、ウディ・ガスリーの未発表歌詞に曲をつけた「The Works」(2008年)や、ディズニー映画への楽曲提供など活動は多岐にわたります。Jennifer Kimballもソロ作品「Veering from the Wave」(1998年)でデビューし、シンガーソングライターとして活動を続けています。
ただ、デュオ時代の二人の声が生み出していた独特の緊張感と調和は、ソロ作品では再現されていないように感じます。The Storyとしての2枚のアルバムこそが、このデュオの本質を伝える作品です。
Roon
SACD
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