[MA 09.101.58] 浅枝伸彦 (Nobuhiko Asaeda) - バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ

ヴァイオリニストの聖域ともいえる、バッハの無伴奏。

1980年代から90年代にかけてドイツの名門、マンハイム国立劇場管弦楽団でコンサートマスターを務めた日本人ヴァイオリニスト、浅枝伸彦氏による自主制作盤です。

目次

Nobuhiko Asaeda - Bach: Partita for Violin Solo

Musikalische Akademie Mannheim – MA 09.101.58

MA 09.101.58

このレコードは、1985年にドイツでプレスされたLPです。

ジャケットやレーベルに詳細なクレジットはほとんどありませんが、型番から、マンハイム国立劇場管弦楽団のメンバーによる自主運営組織「Musikalische Akademie Mannheim」がリリース元であることが分かります。当時、楽団のコンサートマスターという重責を担っていた浅枝氏が、自身の芸術的探求のために録音した、プライベートな性格を持つ一枚といえるかもしれません。

演奏者である浅枝伸彦氏(1955年生まれ)は、ウィーンでワルター・バリリ (Walter Barylli) やリカルド・オドノポソフ (Ricardo Odnoposoff) に、ロンドンではアマデウス弦楽四重奏団のノルベルト・ブレイニン (Norbert Brainin) に師事。さらには20世紀を代表する巨匠、ナタン・ミルシテイン (Nathan Milstein) の薫陶まで受けたという、まさに正統派の系譜に連なる演奏家です。

その実力は、1980年に弱冠25歳でマンハイムのコンサートマスターに就任し、1999年まで約20年間にわたりその座を守り続けたことからも明らかです。

録音は「付帯音が少なくクリアー」で「直接音重視なのに、空間は広い」不思議な音です。

過度な残響に頼らず、ヴァイオリンの胴鳴りから弓が弦をこする微細な音まで、生々しく捉えられています。演奏自体が持つ響きの豊かさと、録音された場所の自然な音響特性が見事に調和しているからでしょうか。

技巧的な「パルティータ第1番 BWV 1002」と、優雅で壮麗な「パルティータ第3番 BWV 1006」という選曲も興味深い点です。浅枝氏の演奏は、グイグイ引っ張る感じではないものの、一音一音に込められた深い確信と格調の高さが、静かながら抗いがたい説得力となって聴き手を惹きつけます。

マンハイムという音楽都市の栄光を受け継ぐ名コンサートマスターが遺した、極めて純度の高いバッハ演奏の記録です。自主制作盤ですが、プレミアがつくような作品ではないと思います。

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