「世界は愛を求めている」のヒットで知られるジャッキー・デシャノン。
しかし、彼女の真の芸術性は、ヒットチャートの裏側に隠された名盤の中にこそ輝いています。1968年に発表された「Me About You」は、商業的な成功こそ逃したものの、彼女が単なるポップシンガーから、時代の先を行くシンガーソングライターへと変貌を遂げる瞬間を捉えた、美しい作品です。
Jackie de Shannon - Me About You
Imperial - LP12386

この作品も何度か再発されています。
私のCDは旧規格盤です。当時のSuburbia Suiteによる一連のCD化が、私にとってのソフトロック入門でした。
当時と言っても後追いで既に廃盤だったのでコツコツ集めました。今ではそれらも再々発として何度もCD化されています。
1960年代、ジャッキー・デシャノンは少し不思議な立ち位置にいました。ザ・サーチャーズが世界的なヒットさせた「ピンと針」や「ホエン・ユー・ウォーク・イン・ザ・ルーム」の作者であり、ビートルズのツアーにも同行するなど、業界内での評価は絶大でした。
しかし、一人のアーティストとしてのスターダムには、あと一歩届かない日々が続いていたのです。そんな彼女が1968年に発表したのが本作です。
全13曲のうち、彼女自身のオリジナルは3曲。残りは、ジミー・ウェッブ (Jimmy Webb)、ティム・ハーディン (Tim Hardin)、ジョン・セバスチャン (John Sebastian)、そしてブライアン・ウィルソンの盟友としても知られるヴァン・ダイク・パークス (Van Dyke Parks) といった、当時のポップス界の精鋭たちが書いた楽曲で構成されています。
そのサウンドは、まさに「ウエスト・コースト・ポップスの黄金時代」そのものです。
フィル・スペクターの右腕として名高いジャック・ニッチェ (Jack Nitzsche) や、ニック・デカロ (Nick DeCaro) といった一流の編曲家が参加し、豪華で緻密な音を織り上げています。壮大なストリングスと、ロックの躍動感が同居するサウンドは、60年代のポップスが持つ洗練さと、来るべき70年代のシンガーソングライターが持つ内省的な深みを繋ぐ、架け橋となっています。
本作は彼女の魅力以上に、選曲の妙による部分も大きいと思います。他にも何枚か持っていますが、これ1枚しかほとんど聴いていません。ジャケットも素敵です。
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