長年レコードで親しんできた作品のCDが、ふと店頭に並んでいるのを見つけた時の高揚感は格別です。物憂げなジャケットのアートワークに惹かれて以来、ずっと聴き続けてきた一枚です。
Lesley Duncan - Moon Bathing
GM Records - GML1017

このアルバムを初めて聴いた時、多くの方がそうであるように、私もキャロル・キング (Carole King) を連想しました。実際に彼女は「英国のキャロル・キング」と評されることもありましたが、そのキャリアは非常にユニークです。
彼女はソロアーティストとして大きな商業的成功を収めることはありませんでしたが、実は英国音楽シーンにおける重要なセッションシンガーの一人でした。ダスティ・スプリングフィールド (Dusty Springfield) はもちろん、ピンク・フロイド (Pink Floyd) の歴史的名盤「狂気 (The Dark Side of the Moon)」や、エルトン・ジョン (Elton John) の作品にもその声を残しています 。
特にエルトン・ジョンは彼女の才能を高く評価し、自身のアルバムで彼女の楽曲「ラヴ・ソング (Love Song)」をデュエットでカバーしたことで、彼女のソロキャリアが本格的に始まりました。
本作は、そんな彼女が自身のマネジメント会社が運営するGMレコードからリリースした4枚目のアルバムです 。大手レーベルの商業的なプレッシャーから解放された環境で制作され、彼女自身も「最高傑作」と認めるほど、芸術性が追求されています。
彼女の持ち味であるフォーキーな叙情性に、ソウルやジャズの洗練されたグルーヴが加わります。
プロデューサーで当時の夫であったジミー・ホロヴィッツ (Jimmy Horowitz) のアレンジと、クリス・スペディングら腕利きのミュージシャンたちの演奏が、アルバムに深い陰影と温かみを与えており、全体としてあくまでも内省的な作品に仕上がっています。
私の手元にあるのは英国オリジナルのGM盤ですが、米国ではMCAからリリースされています。
このアルバムは、ヒットチャートを賑わせた作品ではありません。しかし、音楽業界のプロたちがその才能を認め、こぞって仕事を共にした本物のアーティストが、自身の表現を突き詰めた「隠れた名盤」です。
ステージ恐怖症のためライブ活動がほとんどなかったことが、彼女の名が広く知られなかった一因とも言われています。
Roon
SACD
コメント