鉄のカーテンの向こう側、東ドイツで独自の録音文化を育んだ国営レーベル「Eterna」。
後にベルリン国立歌劇場の音楽総監督として黄金時代を築く指揮者オトマール・スイトナーが、キャリアの初期に残した瑞々しいモーツァルトの記録です。
Otmar Suitner - Mozart: Eine Kleine Nachtmusik
Eterna - 825 015

本作は、1961年に東ドイツでリリースされたステレオ初期盤です。
演奏は、オトマール・スイトナーの指揮によるシュターツカペレ・ドレスデン。メインの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調 K.525」のほか、「セレナータ・ノットゥルナ ニ長調 K.239」、そして「交響曲第29番 イ長調 K.201」という、プログラムが収録されています。
制作は国営企業であったVEB Deutsche Schallplatten Berlinであり、西側からのライセンスではない、純然たる東独オリジナル録音です。リリース年から逆算すると、録音は1960年から1961年初頭にかけて、その優れた音響で数々の名盤を生み出したドレスデンのルカ教会(Studio Lukaskirche)で行われたと推定されます。
エテルナのステレオ初期録音は、後年の洗練されたクリアさとはまた異なる、独特の魅力を持っています。後年のエテルナ盤と比べると、この時期のレコードはややレンジは狭いものの、音そのものが芳醇で厚みがあると感じます。
高域の鋭さや低域の量感を追い求めるハイファイ的なサウンドとは一線を画し、音楽の骨格を成す中音域が非常に充実しているのが特徴です。そのため、弦楽器群の質感は温かく力強く、オーケストラ全体が一体となった塊として、豊かな響きを伴って迫ってきます。
スイトナーのモーツァルトは、常に生命の喜びに満ちています。この初期録音においても、その美質は明らかです。テンポは軽快でありながら決して性急にならず、シュターツカペレ・ドレスデンのしなやかなアンサンブルが、愉悦感に満ちた音楽を自然体で歌い上げています。
特に「交響曲第29番」で見せる躍動感と瑞々しい抒情性は、若き日のスイトナーならではの魅力でしょう。モダン楽器によるモーツァルト演奏の一つの理想形ではないでしょうか。
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