[DG 2530 291] マウリツィオ・ポリーニ (Maurizio Pollini) - ショパン: 練習曲集 作品10 & 作品25

クラシック音楽の録音史には、後世の演奏解釈に大きな影響を与え、長く基準とされ続ける盤が存在します。

1972年にドイツ・グラモフォンからリリースされたマウリツィオ・ポリーニによるショパンの練習曲集は、まさにそうした歴史的な一枚です。録音から半世紀以上が経過した現在においても、この演奏は一つの金字塔として確固たる評価を維持し続けています。

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Maurizio Pollini - Chopin: Etudes

DG - 2530 291

2530-291

この記念碑的なアルバムは、1972年1月と5月にミュンヘンのヘラクレスザールで録音されました。練習曲という極めて高度な技術と音楽性を同時に要求される作品群に対し、ポリーニが提示したアプローチは衝撃的です。それは感情の波に身を任せるロマンティックな解釈とは対極にあり、芸術家というよりアスリートのように、超人的な技巧と知性で音楽の構造を完璧に構築するものでした。

一音たりとも疎かにしない正確無比な打鍵、一切の濁りがないクリアなパッセージ、そして鋼のように強靭なリズム感。その演奏は、ショパンの音楽に内在する情熱や詩情を否定するものでは決してありません。むしろ、無駄な感情表現を削ぎ落とし、楽譜に書かれた情報をすべて音に変換することで、作品本来が持つ建築的な美しさと内なるエネルギーを、より純粋な形で浮かび上がらせているのです。

録音はピアノの輪郭をシャープに捉え、ポリーニの精緻なタッチを余すところなく記録しています。この録音はプレスによる音質差が大きいことでも知られており、私が所有する盤では、レコードよりもCDのプレスの違いが特に大きく感じられます。CDは西ドイツプレスがおすすめです。

ポリーニが成し遂げた「アスリート」的な偉業は、音楽が到達しうる一つの極点を示しています。あらゆる意味で興味が尽きない、まさに金字塔と呼ぶにふさわしいアルバムです。

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