1970年代の英国音楽シーンにおいて、美しいコーラスで数えきれないほどのヒット曲に彩りを添えた職人集団がいました。それが、マイク・サムズ・シンガーズ (Mike Sammes Singers) です。
彼らの膨大なディスコグラフィーの中でも、特に心地よいハーモニーと洗練されたアレンジでオススメなのが、1974年にリリースされた本作です。
Mike Sammes Singers - And I Love You So
Sounds Superb - SPR 90015

リーダーであるマイク・サムズ (Mike Sammes) は、自身も有能なアレンジャーであり作曲家でした。彼が率いるマイク・サムズ・シンガーズは、固定メンバーを持たない流動的なユニットで、テレビ番組のテーマソングやCMソングを数多く手掛け、英国のお茶の間では広く知られた存在でした。
しかし、彼らの真骨頂は、何と言ってもスタジオでのセッションワークです。
トム・ジョーンズ (Tom Jones) やエンゲルベルト・フンパーディンク (Engelbert Humperdinck) といった大スターはもちろんのこと、ビートルズ (The Beatles) の「I Am the Walrus」や「Good Night」にも参加するなど、文字通りポップスの歴史を裏側から支えてきました。
本作は、そんな彼らが主役となり、1974年当時のヒット曲を独自の解釈で聴かせるカバーアルバムとして制作されました。EMI傘下のバジェットレーベル Sounds Superb からのリリースという点も、より多くの人々に彼らの卓越したハーモニーを届けたいという意図があったのかもしれません。
ドン・マクリーン (Don McLean) の作でペリー・コモ (Perry Como) がヒットさせた表題曲「And I Love You So」で穏やかに幕を開けます。原曲の持つロマンティックな雰囲気を、優しく包み込むような男女混声コーラスが見事に表現しています。
収録曲は当時のヒット曲が中心で、ゆったりとした心地よい楽曲が並びますが、このアルバムのクライマックスは、バート・バカラック (Burt Bacharach) 作曲の「Knowing When To Leave」でしょう。この一曲で聴かせる、スリリングで軽快な「パパパ・コーラス」は、まさに彼らの真骨頂です。コーラスそのものが一つのパーカッションのように機能し、楽曲全体に躍動感と洗練された雰囲気を与えています。
全体を通して派手さはありませんが、一つ一つの音が丁寧に、そして効果的に配置されています。
美しいハーモニーに浸りたい方、1970年代の良質なブリティッシュ・ポップス、ソフトロックファンにおすすめの作品です。
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