バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV 1001-1006。
数多くの名盤がひしめくこの作品群において、旧ソ連のヴァイオリニストによる初の全曲録音として歴史的な意義を持つのが、ヴィクトル・ピカイゼンによるこの全集です。メロディヤ原盤を東独エテルナがLP3枚のバラ売りでリリースしたものです。
Viktor Pikaisen - Bach: Sonatas and Partitas for Solo Violin BWV 1001-1006
Eterna - 826 607/9

ヴィクトル・ピカイゼン(1933-2023)は、キエフ歌劇場のコンサートマスターを父に持ち、5歳からヴァイオリンを始めました。
1941年にキエフでダヴィッド・オイストラフの演奏に衝撃を受け、以後オイストラフのもとで音楽学校から大学院まで一貫して薫陶を受けた唯一の門下生です。1957年、オイストラフは新聞「ソヴィエトの音楽家」紙上でピカイゼンを「無限の可能性を秘めたヴァイオリニスト」と評しています。
1965年にはジェノヴァのパガニーニ国際コンクールで第1位を獲得し、パガニーニの24のカプリース全曲演奏を生涯で78回行うなど、技巧派としても知られる存在でした。
その演奏は、師オイストラフから受け継いだロシア奏法に根差す重厚な音色と、堅固な技巧に支えられています。緩急の対比を明確につけ、スケールの大きな表現で聴かせるバッハです。
深い残響を伴った録音は、ヴァイオリンの直接音よりも空間全体に響き渡る音楽のスケール感を重視した仕上がりで、現代のハイファイ基準とは異なるアプローチといえます。ピカイゼンのヴァイオリンは力強く、思慮深く、厳粛に鳴り響き、内省的で重みのあるバッハ像を提示しています。
好みは分かれる演奏かもしれませんが、冷戦期の鉄のカーテンの向こう側で刻まれた孤高の全集として、同レーベルで全曲をそろえられる貴重な作品です。本盤は現在でも比較的入手しやすく、それぞれ黒ラベルがオリジナル・プレスとなります。
Roon
SACD
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