レコード店で思わず手に取った一枚のジャケット。
それが、これまで知らなかった素晴らしい音楽との出会いの扉となることがあります。このタートライ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集も、「ジャケ買い」から始まった宝物のようなレコードです。
その気品ある演奏と、旧東ドイツ・エテルナ(Eterna)ならではの誠実な録音は、ハイドン晩年の傑作の魅力を余すところなく伝えてくれます。
Tatrai Quartett - Haydn: String Quartets Op. 76
Eterna - 827 492-4

このレコードを買うまで、タートライ四重奏団(Tátrai Quartet)という団体のことを全く知りませんでした。彼らは、作曲家ハイドンと同じハンガリーで1946年にヴァイオリニストのヴィルモシュ・タートライ(Vilmos Tátrai)を中心に結成された、歴史ある弦楽四重奏団です。
特にハイドンの作品解釈には定評があり、その全集録音は世界の音楽愛好家から高く評価され、一つの規範となっています。
この3枚に収録されているのは、ハイドンが残した弦楽四重奏曲の中でも最高傑作と名高いOp. 76「エルデーディ四重奏曲」です。このエテルナ盤は、ハンガリーの国営レーベルであったフンガロトン(Hungaroton)が1964年に行った録音を原盤としています。
そのサウンドは、まさに「端正」という言葉がふさわしいものです。派手な演出や誇張は一切なく、4つの弦楽器が織りなす音楽の構造が、驚くほど明瞭に、そして自然に立ち上がってきます。特に、リーダーであるタートライのヴァイオリンは気品に満ち、エデ・バンダ(Ede Banda)が奏でるチェロはアンサンブル全体を温かく支えています。
彼らの演奏は、穏やかながらも決して退屈ではありません。そこには常に生き生きとした生命力が脈打っており、ハイドンが楽譜に込めたユーモアや深い叙情性が見事に描き出されています。
このタートライ四重奏団によるハイドンは、一聴して心を奪われるような華やかさはないかもしれません。しかし、聴き込むほどにその滋味深い魅力の虜になる、まさに「スルメのような」名演です。
ハイドンの弦楽四重奏曲の入門盤として、また、数々の演奏を聴き継いできたベテランの愛好家にも、心から推薦したいレコードです。
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