1970年代、数多のバンドが生まれ、そして消えていきました。その多くは大きな成功を収めることなく、人々の記憶から忘れ去られてしまいます。
しかし、中にはごく一部の愛好家によってその価値が見出され、長い時を経て「幻の名盤」として輝きを放つレコードが存在します。
Full Sail - Maiden Voyage
Not On Label – SW 2809

1976年、アメリカ北西部の都市シアトルで、あるバンドがひっそりと一枚のアルバムを自主制作でリリースしました。バンドの名は「Full Sail」。
4人組であったこと以外、そのメンバー構成や詳細な活動履歴はほとんど知られておらず、この「Maiden Voyage」というアルバムが、彼らが音楽史に残した唯一の公式な作品です。
アルバムは、アコースティックギターの爽やかなカッティングで始まる「Sailin' Along」で幕を開けます。心地よい風を感じさせるような軽快なリズムと、透明感のある男性ボーカルのハーモニーが印象的です。自主制作盤とは思えないほど安定した演奏と、練りこまれた楽曲構成からは、バンドの高いポテンシャルを感じます。
他の楽曲では、よりフォーキーで叙情的な側面を見せ、優しく爪弾かれるギターの音色とメロディが聴く者の心に染み渡ります。かと思えば、にブルージーなフィーリングを感じさせる楽曲も収録されており、アルバム全体を通して彼らの音楽的な引き出しの多さに驚かされます。
派手なアレンジや実験的な試みはありませんが、どの楽曲もメロディが秀逸で、丁寧に作られていることが伝わってきます。アコースティックな響きを基調としながらも、的確なエレクトリックギターやベース、ドラムがサウンドに深みを与えており、飽きさせない構成です。
初めて聴いた時はニール・ヤングとミレニウムを連想しました。両者は、それなりに衝撃を受けたので、それに比べると小粒感は有りますが、トータルとして良くできた作品です。
CDは分かりませんが、オリジナルのレコードでも今では入手し易いと思います。
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