1980年代中盤、英国のインディー・シーンに彗星のごとく現れ、わずか数枚のシングルを残して姿を消したバンド、Man Upstairs。彼らの音楽は、一般的に「ネオアコ」というジャンルで語られますが、その枠だけでは到底収まりきらない、切なく瑞々しいメロディーと、どこか物憂げなヴォーカル、そして巧みなギターワークが織りなす独特の世界観を持っていました。
数多くのアーティストがひしめくポップスの世界で「一番好きなアーティスト」を一人だけ選ぶのは至難の業です。しかし、「一番好きな曲は?」と問われれば、私は迷うことなく彼らの「Country Boy」を挙げます。ここでは、そんな彼らが残した公式音源のすべてを紹介します。
Man Upstairs ー シングル / EP一覧

彼らが公式にリリースした音源は、3枚の7インチシングルと1枚の12インチEPのみです。スタジオ・アルバムは存在しませんが、だからこそ一枚一枚に込められた輝きは格別です。その短い活動期間に残された作品たちを、時系列で見ていきましょう。
- Summa [1982]
Clock House Records – CH 0502 (7")
A1. Summa
B1. Gospel According To Mark
記念すべきデビューシングル。後の作品と比較すると、若さゆえの荒削りな部分も感じられますが、バンドの原点となる初期衝動が詰まった一枚です。軽快なカッティングギターと少し屈折したポップセンスは、この頃から彼らの個性として確立されています。
- Sad In My Heart [1985]
Side Line – SIDE 1 (7")
A1. Sad In My Heart
B1. Country Boy
A面の「Sad In My Heart」も、その名の通り哀愁漂うメロディーが胸を打つ名曲ですが、このシングルの価値を決定づけているのは、B面に収録された「Country Boy」に他なりません。
イントロのアルペジオが鳴った瞬間から、その場の空気を変えてしまうほどの圧倒的な存在感。切なくも美しいメロディーライン、そして完璧なバンドアンサンブル。ポップミュージックが持ちうる輝きのすべてが、この2分半に凝縮されています。極論を言えば、Man Upstairsは、この7インチシングルだけを手に入れれば良い、とさえ断言できます。
- Consumer Song [1986]
Side Line – SIDE 2 (7")
A1. Consumer Song
B1. Shouldn't Try
これが彼らのラストシングルとなります。前作までの瑞々しさを残しつつも、よりソリッドで洗練されたバンドサウンドへと進化を遂げています。
そして、一番有名なのがこのジャケット。

- The Consumers' EP [1986]
Side Line - Wide1 (12")
A1. Consumer Song (American Club Mix)
A2. Shouldn't Try
B1. Country Boy
B2. Sad In My Heart (Russian Club Mix)
B3. I Bet They're Really Missing Me Downstairs
「Sad In My Heart」と「Consumer Song」の7インチ収録曲4曲に、このEPでしか聴けない「I Don't Know」を加えた、全5曲入りの12インチEPです。活動を総括するような内容で、彼らの代表曲がほぼ網羅されているため、ファンにとっては非常に魅力的な一枚と言えるでしょう。
アイコニックなジャケットデザインも素晴らしく、コレクターズアイテムとしても人気が高いです。しかし、「音質」の問題が存在します。
アナログレコードの世界では、盤のサイズや重量、カッティングの仕方など様々な要因から、一般的に7インチよりも12インチの方が音質的に有利とされています。しかし、Man Upstairs、特に「Country Boy」に関しては、この常識が当てはまりません。
私自身、両方の盤を何枚も聴き比べてきましたが、その印象は一貫しています。「Country Boy」は、7インチシングル盤の方が、明らかに鮮度が高く、生々しいサウンドを体感できるのです。これは勝手な想像ですが、7インチ盤こそがオリジナルのマスターからカッティングされたものではないかと考えています。
手軽に聴くならこの一枚 ー 決定版CD「Home From The Picnic」
Home From The Picnic [2016]
Firestation Records – FST140 (CD)
1. Country Boy
2. The Boy Next Door
3. Barratt Homes
4. I Can Be Anything
5. Shouldn't Try
6. Sad In My Heart
7. The Person In Front
8. Cry Cry Baby
9. No Smokes Without Fire
10. Don't Be Afraid Of The Dentist
11. They Wanna Be Like You
12. It's Raining
13. I Bet They're Really Missing Me Downstairs
14. One Kiss At Sunset
15. Jack
16. One Lump Or Two
17. The Consumer Song
18. When Jealously Starts Again
19. You've Gotta Keep To The Beat In Ballroom Dancing
20. No Smokes Without Fire (Version)
21. Cry Cry Baby (Version)
22. Desperate Dan
23. Raging Fool
24. Lipstick Shuffle
25. Big Fish
26. Ba Ba Ba Ba
27. The Eye Of The Needle
28. My Way
このCDは、単なるシングル・コレクションではありません。これまでにご紹介した公式リリース音源はもちろんのこと、当時お蔵入りになっていた貴重な未発表音源を大量に追加収録した、全28曲入りの驚異的なボリュームを誇ります。彼らの活動の全貌に迫ることができる、まさに「決定版」と呼ぶにふさわしい内容です。
彼らの素晴らしい楽曲を手軽に、そして網羅的に楽しめるのは、このCDならではの大きな魅力です。アナログ盤を探求する前の入門編として、また、全ての音源をコンプリートしたい熱心なコレクターにとっても、必携の一枚です。

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