最も偉大なピアニストは誰か?
と質問されれば、スヴャトスラフ・リヒテルは必ず上位に名を連ねる演奏家です。
彼の作品を聴けばそれは明らかですし、私も大好きなピアニストの1人です。
今回はその中でも思い入れのある、バッハの平均律を取り上げます。
スタジオ録音としては、1巻2巻それぞれ1回しか録音されていないにもかかわらず、本作品は様々なレーベルからリリースされています。
本当の意味でのオリジナル作品はどれなのか検証してみます。
ここでのオリジナルとは、あくまでもLPでの話です。
リヒテルの平均律はどれを買えば良いのか?
CDもリマスターを含めて何種類も出ていますが、CDの音質は評判が悪く、SACD化されてようやくまともな音になったような意見を耳にします。
CDを持っていないので、コメントは控えます。
まず、かつて、ソニーミュージックでSACD化された際(2002年)の紹介文を一部引用します。
この有名な録音は、日本でも新世界レコードから1972年と1974年に第1巻・第2巻に分けて発売された後、日本ビクターのメロディア・レーベルから LP、そしてCD(1994年には日本のマスターを使用して20ビット化されている)として発売。またこの録音は、世界各地でもシャン・デュ・モンド(フ ランス)、EMIおよびオリンピア(イギリス)、ミュージカル・ヘリテイジ・ソサエティ(アメリカ)、エテルナ(東独)、リコルディ(イタリア)などさま ざまなレーベルから発売され、CD化もされてきたが、これまでのCDでは残響豊かなクレスハイム宮殿で録音されたことによるLP時の雰囲気豊かな音質を再 現することが出来なかった。 今回のリマスタリングに当たっては、その中でも最も音質が明晰で豊かとされてきたドイツのRCAアリオラ=オイロディスク盤のオリジナル・アナログ・マス ターを使用。24ビット/96Khzリマスタリングを施すことによって、すべての既出盤を上回る決定的な音質向上が図られる。
参考: J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集(全曲) スヴャトスラフ・リヒテル
ここでは、西独Eurodisc版が、最も音質が優れていると紹介されています。
オリジナルLPとしては、このEurodisc版を指す傾向が強いように感じます。
Eurodisc - 80651 XGK(1巻), 85629 XGK(2巻)
このジャケットを採用したCDも良く見かけます。LPの場合は、BOXになっていて、それぞれ3枚組です。
ただし、1巻の3枚目はA面のみなので実質2.5枚です。2巻は3枚目も両面仕様です。
私が知る限り、このシリーズでも3種類あります。
このグレーラベルが初版です。2版がゴールド、3版がレッドラベルです。
ラベルを見ればわかる通り、露MELODIAと西独Eurodiscの共同リリースです。
このスタジオ録音は、ザルツブルクで収録されています。
リヒテルはソ連のピアニストであり、当時は国外での演奏はオリジナルかマスターテープをもらう必要があったそうです。
この共同リリースで、どのような役割分担があったのかは良くわかりませんが、本来はメロディアがマスターを所有していると考えるのが自然だと思います。
CD化された作品で、メロディアマスター盤というのは見かけません。殆どがオイロディスクをマスターとしている気がします。
これがオリジナルと結論付けたいところですが、ここで、東独Eternaの存在を忘れてはいけません。
ETERNA - 826 602-4(1巻), 826 791-3(2巻)
エテルナ盤はBOXの存在は無く全てバラ売りです。
当然1巻2巻それぞれ3枚バラ仕様となります。
オイロディスクは1巻が実質2.5枚なのも含めて、エテルナの方がカッティングに余裕が有って有利な気がします。
ブラックラベルが初版です。2版はブルーになりますが、ブラックしか見かけないような気もします。
ここでも、MELODIAとの共同リリースであることが分かります。
以上のことを考えると、メロディアのマスターを東西ドイツでそれぞれ独自にカッティングしているような気がします。
もしくは、メロディア=オイロディスクのマスターをエテルナが独自でカッティングしているかもしれません。
広義ではこの3社のリリースがオリジナルと言えそうです。
東西ドイツ2社の音質比較をしてみると、大きな差ではないですが、エテルナ盤の方が明瞭度が高く、混濁感が少なく良好である事が分かります。
オイロディスク2版のゴールド盤とも比較したことが有りますが、オイロディスク初版2版の差の方が分かりやすいように感じます。
エテルナ≧オイロディスクグレー>オイロディスクゴールド
という感じです。
巷のCD評では、風呂場で聴いているようなエコー過多な酷いサウンドと書かれているのを目にしますが、エテルナではもちろん、オイロディスク盤でも残響成分は多いにせよ、違和感なく演奏を聴く事ができます。
ここで気になるのが、本家MELODIAの単独作品です。
同レーベルというと盤質にムラがありノイズが多い事や、同じ作品なのにジャケット(BOX)が異なる、そもそもロシア語で何と書いてあるかわからないなど、購入する上でのハードルが高く、この平均律は所有していません。
かつてメロディアに対しては良いイメージを持っていませんでしたが、何枚か聴いてみると、良い盤は本当に自然な音色を持っていて、エテルナとはまた違った魅力のあるレーベルだと今は評価しています。
そのうち、メロディアオリジナルを加えて改めて3種比較してみたいと思います。
当作品のメロディア初版をお持ちの方がいらっしゃれば、ご意見伺いたいところです。
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