ルイ・マル (Louis Malle) 監督の作品には、一度ハマると抜け出せない不思議な魅力があります。「死刑台のエレベーター」や「恋人たち」といった名作の中でも、ひときわ異彩を放つのが1960年の「地下鉄のザジ」。
その独特な世界観に惹かれる映画ファンにとって、サウンドトラックは特別な意味を持つ一枚ではないでしょうか。
Fiorenzo Carpi - Zazie Dans Le Metro
Versailles - 90M317

このサウンドトラックを手がけたフィオレンツォ・カルピ (Fiorenzo Carpi) は、日本ではアニメ「ピノキオ」のテーマで知られますが、その本質は舞台音楽にありました。
特にイタリア演劇の巨匠、ジョルジオ・ストレーラー (Giorgio Strehler) は「私の演劇は、彼の音符によって成り立っている」と最大級の賛辞を贈っており、近年ではその功績をまとめた初の専門書が出版されるなど、再評価の機運が高まる「知る人ぞ知る名匠」です。
そんなカルピが、フランス・ヌーヴェルヴァーグの鬼才ルイ・マルと組んだ本作は、まさに映画の狂騒的なエネルギーを音で体現したものです。映画自体がスラップスティック・コメディやパロディを多用したアナーキーな作品であるため、音楽も単なる背景に留まりません。ある場面では西部劇のように、またある場面ではヒッチコック映画のようなサスペンスを奏で、めまぐるしく展開します。これは、演劇で培われたカルピの「物語の核心を音で表現する力」が、映画という舞台で遺憾なく発揮された結果と言えます。
このEP盤は、二人のアーティストによる遊び心と実験精神に満ちたセッションの記録です。
オリジナル盤は高価で取引されますが、ジャケットの素晴らしさもふくめて、映画の世界観に強い思い入れのある方なら入手しても損はないです。
DVDとCDも所有していますが、この7インチは思い入れがあります。
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