CBS - 79220 ロザリン・テューレック (Rosalyn Tureck)、バッハ: ゴルトベルク変奏曲

「バッハ弾きのスペシャリスト」と称されたピアニスト、ロザリン・テューレック。

彼女が残した数ある録音の中でも、この1979年の「ゴルトベルク変奏曲」は、異彩を放つ存在です。これは彼女が唯一チェンバロで全曲を録音したゴルトベルク変奏曲であり、彼女の音楽哲学を最も純粋な形で体現しているからです。

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Rosalyn Tureck - Bach: Goldberg Variations

CBS - 79220

 79220

録音は1978年3月にニューヨークで行われ、プロデューサーはスティーヴン・エプスタインです。

アナログのステレオ録音で、1979年にCBS Masterworksレーベルから2枚組LPとして初めてリリースされました。テューレックは生涯に少なくとも5回以上ゴルトベルク変奏曲を録音しています。本作はその中の一枚であり、チェンバロを用いた唯一のスタジオ録音として知られています。

この演奏の核心は、音色の美しさや華麗な技巧の誇示とは対極にあります。

テューレックは「ピアノでチェンバロを模倣すべきではない」と語ったことで知られますが 、この録音は、彼女がチェンバロという楽器を、バッハ音楽の構造を解き明かすための手段として使ったように感じます。  

一部の批評家から「生気がない」と評されるほど、装飾的・感情的な表現が削ぎ落とされています。それは欠点ではなく、テューレックの意図でしょう。彼女は、バッハの音楽の感情は「構造の中にこそ存在する」と信じていました。

この録音では、ピアノの持つ豊かな音色ではなく、音楽的構造を、明瞭に描き出すことに専念しています。そこには、楽しさや躍動感はほとんどありません 。代わりに、音楽が持つ建築的な美しさや秩序が、浮かび上がります。  

この演奏は、聴き手に安らぎや心地よさを与えるものではないかもしれません。能動的に音楽の構造を聴き解くことを要求するような作品です。テューレックが追い求めたバッハの音楽の真髄が隠されていると感じます。
聴く側が試されるような演奏です。

CDだと晩年のこれから入るのが良いかと思います。

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